唇がキスを誘うとか強請るとかいうけれど今日のギーマは可笑しい 「なんかの小説かテレビのCMかで言ってたんだけど、女性の魅力的な唇がキスを誘ったり強請ったりしてるように見えるって」 「ふーん、」 「君の場合唇じゃなく歯だと思うんだ」 「意味が全く解らん!」 変わった奴だとは思っていたし、持ち場を離れて俺の部屋でぐだぐだずっと喋ってたり話しかけてきたりと言う奇行は続いてきたがそれでもこんな事を言う奴ではなかった。と思っていた、つい1分程前までは。会議の日程を伝えに来ただけだったのに、何が如何してこうなったのか。 「だから私が君にキスをしても誘われたんだから問題は無い」 「落ち着けギーマ、常識とTPOとお前と言うキャラクターを忘れてるぞ」 お前は女が好きだと公言していたじゃないか、常識的、本能的でまあ悪い事じゃないが公言する事じゃないだろと注意した事も何度かある。そんなお前が何故男の俺にキスをするかもしれない、何て未来系の話しをしてくるのか全く意図が掴めん。 「大丈夫、何も忘れてないから」 全く大丈夫さを感じないんだが…突っ込みを入れる前にまた勝手に喋り始めた。しかし何時もの余裕と何かよく解らない感情を綯い交ぜにした笑みを湛えた顔ではなく、真剣な面持ちで喋る内容では全く無い気がする… 「初めはそのマウスピースの色がヤバいと思っていたんだ」 何がヤバいんだ、マウスピースなんて格闘家なら誰でもつけてるし、色だってたまたまだ。何となくいいなぁ、と思ってこの色にしただけだったし。 「でも違った、」 「?」 「外した後は益々じゃないか、益々ヤバいだなんて…想像外だった」 「はあ?」 俺が、何時お前の前でマウスピースを外した。仕事の最中は食事以外では外さないし、そもそも食事を四天王揃って食べるなんてそんな回数のある事じゃない。 「この前宿舎に泊まっただろ?四天王合宿でさ」 確かに四天王もレベルアップが必要だと言う話になり職員宿舎に泊りがけで訓練した。ああ、そうかあの時は流石に外したな。 「あの時洗面所で君、歯、磨いてただろ?」 「そりゃ寝る前は磨く」 部屋で磨いても良かったが風呂上りわざわざ部屋に戻って歯を磨くのは面倒だったからそのまま浴場についてる洗面台で歯を磨いた。普通の動きだ、極自然な動作だ。何の問題も思いつかん。 「マウスピース外してたろ?」 「当たり前だ、」 そもそも、あれは日常的に付ける物ではない。仕事の間、修行の間に歯を守る為に着けているだけだ。 「その時君が喋る度ちらちら上下の歯が覗くのが堪らなくて」 「そうだったのか…って!お前は日頃から人の口の中を窺うと言うか覗いていたのか!?」 「覗きじゃない、盗み見だよ」 「堂々と言うな!」 悪タイプの使い手め、否ポケモンタイプは関係ないか?悪人か、ギーマ、お前は悪人だったのか?否、変態、変人か?まさかそう言った性癖でも持っていたのか?俺の頭の中は疑問で満ち満ちていく、ギーマの顔は何時もの余裕綽々の薄ら笑いで俺が頭を捻りに唸っているのを楽しんでいるようにも見える。何だか腹立たしい。 「…今はもう、 ふぅ」 なんだその無駄な溜めは、悩ましげに伏せられた目も色素の薄い肌も浅い溜息を吐く唇も、顎に添えられた手も脚の上に乗った肘も組まれた足も上質な衣服も、この空間全てが相俟ってギーマを彫刻の様に美しく際立て、その独特の雰囲気に飲まれそうになる、が、飲まれたら負けだ。何かに負けるんだぞレンブ、 「………今は?」 だが聞いてはいけないと思うのについ聞いてしまった俺の馬鹿野郎。この時点で好奇心に負けている、修行が足らん。 そして、本当に聞くんじゃなかったとギーマの言葉を受けて後悔した。 「…歯が覗く所か君が喋るだけでこう…ムラっとする」 何が「ムラっとする」なんだお前は!うわ、脂汗でて、き た… 「警察!警察ー!」 反射的に叫んでしまったが喋ったら向こうの思う壺、落ち着け、こういう時は無視と黙殺に限る。大体、用件はとうに済んでいるのだからこんな訳の解らない話に付き合っていないで持ち場に戻らなければならないのだ。そう、何時もと同じ、つい説教してやりたくなり説教して、その度軽くあしらわれてキレかけて、何とか理性で怒りを抑えその場を後にするだけ。そう、何時も通りやればいいんだ。唯それに喋らない、を追加するだけ。簡単な事じゃないか。 言いたい事をぐ、っと飲み込んでギーマの前から踵を返し立ち去ろうとしたレンブの背中にしかし、ギーマは鳥肌ものの台詞を投げ掛けた! 「……黙られるとその口を抉じ開けたくなるんだけれど、これは矢張り恋だよね」 「ギーマ!何かを忘れて履き違えて、置いてきてるぞ!」 モラルとか世間体とかギーマと言うキャラクターとかとか!!恋愛経験の殆んど無い俺が言うのもあれだがそんなの恋じゃない!そして無視と黙殺、5分も保たなかった…やはり修行不足だ。うう、鳥肌気持ち悪い… 「置いてきてない置いてきてない、大事な事だから二回言いました」 「私も二回目言うぞ、落ち着けギーマ!異性愛者の鏡の、権化の様な男がどうしたんだ!!」 「確かに私は異性愛者だ、その点は否定しない。しかし、レンブ」 だからと言って常に女性に恋する訳じゃない、そう、 「コインが常に表裏出るとは、限らないんだぜ?」 これはイレギュラー、私の放ったコインは掌をすり抜け、縦に落ちて地面の上を綺麗に踊っているんだ、今、進行形で。 「…格好よく言っても、全く格好よくないんだが」 「……やっぱりその白い歯、いやらしい」 「本当に落ち着け、歯の綺麗な人は老若男女、他にも山ほど居るじゃないか…そちらで満足してくれ。」 「それが不思議と君以外の男の白い歯はおろか女性の白くて綺麗で小さな歯にも反応しないんだよこれが。ギャップ萌え、とか言う奴なのかな?それとも肌の色の関係なのか他の要因か…小難しく言っててもあれだ、うん、つまりやっぱりキスされても君は文句言えないという」 「訳あるか!文句は言うし抵抗もするわ!」 「じゃあ一回だけ、一回だけさせて?そうしたら何か解る気がするんだ。」 「嫌だ!何も解りたくないし解られてたまるか!!」 「大丈夫、恐クナイ、優シクスルカラ、私ヲ信ジテヨー」 「片言止めろー!こっち来るなー!コジョンド、とびげりでギーマを怪我しない程度に吹っ飛ばせ!」 「キリキザンいなしてつばめがえし!その後レンブ確保!怪我は止してくれよ。」 『この主人共…無茶苦茶言うよな…』 数十分後、ギーマの部屋の騒がしさに漸く気付いたシキミとカトレアが部屋に向かったところ、とても真剣にポケモンバトルをしているギーマとレンブがいたとかいないとか。 もめたら兎に角ポケモンバトルがトレーナーの掟、そして初めて書いたギマ→レンがこれか…格好いいギーマさんが書きたかった筈なんだが……… |