小説 | ナノ





私の想い人(レンブ手持ちダゲキ←ギーマ手持ちキリキザン)







唐突だが私には想い人がいる。

正確には人間ではない、種族も性別も異なるし年齢も離れている可能性がある。そもそも、私も人間ではない。私の主や他の人間がポケモンと呼ぶ獣の一種、私の種族の事を人間は幼体を「コマタナ」・成体を「キリキザン」と呼んでいる。
私の主も私が幼い頃は「コマタナ」と呼んでいたが私が成体となると「キリキザン」と呼んでいる。主の都合で幼い頃に捕らえられた身だが今はこの生活に然したる不便も不満も感じていない、そう思っていたのだ。

だが、最近は事情が異なる。今私は些か窮屈な思いをしている、この割り当てられた巣の外へ、戦いや修行以外の都合で出ていたいと思い始めているのだ。

理由は単純明快、想い人に逢いたいのだ、彼の人の姿を視界に認めたい・私も彼の視界に入っていたい。その為この長年棲み続ける狭くて居心地の良い巣を少々憎らしいと感じてしまう、この巣に収まっている状況が今の私の敵である。
主から与えられた巣はなんとも言えない居心地の良さで、この堪らない安堵感を放り出してすら傍に居たい相手が居ると言うのに、私の体は休息を欲し言う事を聞きやしない。

仕方ない、と体の力を抜き、目を瞑り眠る前の僅かな時間を彼の人との思い出にでも浸る事にする。彼の人との出会いは大分前に遡る―


*


主がポケモンリーグと言う場所に通い始めて季節が4度回った頃に、主に新しい人間の仲間が出来た。前に居たのが1人居なくなった代わりだというのだが、私には関係ない事だし、主人もあまりその人間に興味を示してはいない様だった。そして新しい仲間にも特に高い関心を寄せてはいないのだろう、主の表情はカジノで仕事をする時の様に取り繕った笑い顔、と言うものだった。
その新しい仲間と言うのは浅黒い皮膚に白と黄色のぶかぶかの布(主が言うに服、と言う人間が纏う皮や鱗の事らしい)を纏った大きな人間で私の種族の天敵、と言うべき種族のポケモンの使い手だらしい。自分の巣越しに聞こえる主と大きな人間の会話はくぐもり、はっきりと聞き取る事が出来ない。

「―…まない、」
「―に、構わないさ。ね?キリキザン」
何が構わないと言うのだろうか、話が見えてこないのだが主?
「早速で悪いが頼む」
「キリキザン、今からバトルだよ。宜しくね、相手は格闘タイプだけれどまぁ、何時も通り頼むよ?」
何と言う事だ!つまり主と相手の人間の話では、今から私はその天敵種族と戦わなければならないと言うではないか。大事な事をいけしゃあしゃあと言ってくれる、主は私達に甘い様で存外に厳しい。
だが、主の命令に逆らうと言う選択肢は私に存在していない。巣の中で頷けば「いい子だね」と柔らかい声で囁かれ胸の奥が熱くなり耳が擽ったくなった。

私は主が全てだった、

主の眼鏡に適い主の期待に応え続けたからこそ今があると言っても過言ではなかった。主人以外は風景や自然物と同じ程度にしか映っていない、そんな私の前に現れたそいつは青と白の獣だった。その気配と構えからかなりの手練と感じ取ったが私は負けるつもりは毛頭無かった。
今迄天敵種族との戦いが皆無であった訳ではないし勝利をもぎ取った事もある、主との付き合いも仲間の内では比較的に長い方でその分様々な相手とも戦ってきた。その事実と経験から来る自信が、私にはあった。だがそれは自惚れでもあった。

その後そいつと相対した私は完膚なき迄叩きのめされたのだから――…


*


どれくらいか、一瞬だったのか何十分も経っていたのか。私は昏倒していたらしく痛む体を起こすと私は部屋の隅に転がっていて、床には私が転げたであろう擦れた後がはっきりと残っていた。

私は負けたのか…主の命に従えなかったのかその現実を他人事の様に感じながらしかし、現実であると実感した私の胸の、頭の中は急速に息苦しさとせり上がる息苦しさに戸惑ったが其れも僅かな間。一瞬で全ての感情が沸騰し爆発した!


嗚呼!!


悔しい、悔しい悔しい悔しい悔しい!!!!


訳も無く喚き散らしたい、胸を掻き毟りたい衝動に駆られた。此処迄叩きのめされたのは久し振りで、己の不甲斐無さと身の引き裂けんばかりの自責の念に地面に伏した儘でいると青い手が目の前に差し出された。ちらりと視界に入れると相手の顔も序でに入ってきて、告げられる言葉もするりと耳に入ってきた。

『大丈夫か?お前が強くて手加減が出来なかった』

世辞だとは直ぐに解った。普段ならそんな情けを掛けられようものなら直ぐ様強がる様な言葉を相手に吐きかけるのだが、今回は何故だか反感も虚栄心も湧かず素直に頷いた。良かった、と言いながらも手を押し出してくる彼は何やら言っている。おそらく「立てるか?」とかなんとかだっただろう、言われた言葉が曖昧なのは私に何の臆面もなく手を差し出している、と言う行為にとても驚いていたからだと思う。
触れたものを無意識に傷つける事もあるこの手と腕には主すら細心の注意を払って触れてくると言うのに、今戦って解ってるだろう?お前のその顔の切り傷も皮膚が裂けてるのも関節に中途半端に開いた穴も全て、私のこの腕がつけたんだぞ?人間なら凶器とも呼ぶ腕や手を負かした相手とは言え掴める筈が無い。そう考えじっとしていた私を、屹度動けないと勘違いしたんだろう。相手は私を気遣いながらも手を取り肩を支え私を立たせ様としたのだ!!

馬鹿!怪我したらどうするんだ貴様!!戦い以外で無駄な傷を相手につける趣味は私には無いんだぞ!?
そう抗議してやろうと思った時、私の手を取る温かな掌の感触に意識を持っていかれた。普段他人に極力触れないよう注意している私の手に無防備と言ってもいい程に触れる手は酷く新鮮で、不思議な気持ちになった。

その手は硬い皮膚で覆われてごつごつしていたが、心地好いとも思った。私を立たせた後彼は私の手を取った儘主達の前まで連れて行ってくれた。暖かい手だ…ああ、何だか動悸がしてきた。今更戦いの余韻や疲労でも出てきたのだろうか、修行不足だ。でもこの掌は何だか心地好くて包む込む程に大きい気がして安心する。
自分の主に呼ばれて離れていく手を離したくない……?

これは一体なんだ?何だ何だ?この気持ちは?何て事を思ったんだ?考えたんだ?
主に声をかけられても私は何処か上の空のまま自分の巣に帰る。疲れているんだ、今日の相手はとびきり強かったし珍しく負けたから気落ちしてるんだろう。寝てしまおう、寝てしまえば屹度何時もの私に戻る筈だ。そう自分に言い聞かせ巣の中で丸くなり目蓋を閉じた。

だがその日から、私は段々と可笑しくなり始めた。


先ず主の事で年がら年中占められていた頭の中に、彼の人が割り込んできていた。気づいた時は一日の内に数回掠めていく程度だったがこの所は主に取って代わらんばかりに私の脳内を埋め尽くしにかかっている。それに気付いた時は愕然とした、まるで主への忠誠心や信頼が薄れてしまったんじゃないかと不安感と恐怖感で埋め尽くされそうにもなった。それ等が自分の存在証明のようなものだった、私の全てだったのにそれを無くしてしまったら私は生きる価値がなくなると一緒じゃないか!
だから彼の人が脳裏を掠めるその度、見えない霧を払うよう腕を振り回しても目蓋の裏に焼き付く彼の人の残像は薄れるどころか毎日色濃く焼き付けられていく、

初めは疎ましい、鬱陶しいとしか思っていなかったが最近、何だか彼の人がずっと目の前に居るみたいで恥ずかしい。今は別の意味で困っている

その幻想を振り払う為、私は修行に鍛錬に励んだ。主が溜息を吐きながらもう止めなさい、と私をそっと咎める迄毎日毎日、明け暮れたのだが幻想は振り払えなかった。まぁ、止める主や仲間を小手先で振り払う事は容易くなったが…結果は強くなっただけだった。その間も彼の人の姿は私の精神をじわじわと苛んでいった。
果てには挑戦者が繰り出す天敵種の獣と戦っても彼の人と比べてしまう事までしてしまった。彼はもっと強かった、私がこてんぱんにのされてしまう程に。彼と同じ種族と戦う機会だって何度もあった。でも、彼以外に殆んど負けていないからこの思いには更に拍車がかかった。同じ種族なのに、何故こんなにも違うんだろう?と彼の人を特別視してしまう様になっていた。

これが主への想いとは異なる気持ちだと気付いた時、常日頃なら己の心の揺れを惰弱、忠誠心の乱れ、修行不足と己を誹るのだがその誹りはどう言う訳か湧き上がって来なかった。それよりも胸の中を満たしているのは浮き足立つ様なふわふわと心地の好い、温かいなにかと彼の人ともっと一緒に居たいと言う、普段の私なら有り得ない想いだった。
あまりの結論に自分でも驚いて慌てて仲間に相談したところ、仲間達からは「勘違い」だの「考え直せ」だの「お前につり合わない」だの「主人より素敵な相手等いる筈が無い」だのと散々諭されたが、私はもうこの想いを捨てる事が出来なっていた、寝ても覚めても彼の人の事ばかり頭の中に浮かんでくる、彼の人の事とを頭に浮かべれば知らず体温は上がり、頬や耳が紅潮し刃のコントロールを蔑ろにしては辺りを矢鱈めったら切り刻む。
終いには仲間達に「彼に会いたい」と零し溜息を吐かれてしまう始末。願っても主の都合で以外巣の外に出る事が叶わない身であるので叶わない願いではあった。
それ程に想いは募っていた。その想いを季節一回転と半分の間抱え込んで、私は―…

ぐらり、

と巣が揺れ動き目を覚ました。どうやら寝入っていたようだ、ああ、今のは夢であったか…ぼんやりとしている意識がすっきりしてきて漸く状況が飲み込める、嗚呼、主が仕事場へ向かうのか。「行こうか」と声を掛けながら私や他の仲間を懐にしまい、最近愉しげに職場へ向かう主人はあの大きな仲間がお気に入りらしい。よく私達に話してくださる話はあの人間の事がとても多く、その時の主はとても愉しそうだ。
これは私にも好都合だった、主があの大きな人間に会うと言う事は私が彼の人に会える可能性があるという事だ。何故なら我が主は、初めて私と彼の人が手合わせをした後から頻繁にあの人間のポケモンと私達を戦わせ鍛えようとしているのだ。毎度彼の人と戦えるという訳ではないがそれでも週に一度は会えるしその後自由時間と称して私達を暫く自由にして下さる。その間、私は彼の人と言葉を交わす事が出来る。

「やあレンブ、お早う」
「ああ、ギーマ。お早う」

主、早く、早く速くはやく、彼の人が居るのでしょう?速く私を巣からお出し下さい。彼の人の主人も、出来らば彼の人を巣から出して頂けませんか?

私は一刻も速く、彼の人に逢いたいのです。出来たら今日も彼の人と戦いたいのです!

「こら、行儀が悪いよキリキザン」
「どうした?ギーマ」
「この子が暴れてるよ、珍しい」
「お前の手持ちは随分懐いている筈だろ?」
「最近妙に活発なんだ、なんだろうね?」
「やる気があるんじゃないのか?」
「君の脳筋ポケモンじゃないんだよ?」
「うちのは脳筋じゃないわ!」
「まぁまぁ、何時もの通り頼むよ」
「…ふん、来いダゲキ!」
「おいで、キリキザン!」
主の声と共に私は巣から飛び出し地面に着地して顔を上げる。嗚呼、思ったとおり。彼の人も目の前に立っている、やっと逢えた!長かった、一晩しか経っていないと言うのにとても長く感じた。ああ、彼の人が何か言っている、いけない、浮ついていてはみっともない姿をまた曝してしまうかもしれない。気を引き締めるんだ私。

『お早う、』
『…お早う』
素っ気無い、普段の私通りの声音に一番安堵するのは私自身。良かった、上擦ったりしたら格好が示しがつかない。
彼の人の前でみっともない姿は曝せない、したくない。初めての戦いの時以外で、そんな姿を記憶されたくないのだ。

『最近主人が言うんだ、其方の主人に世話を焼きすぎている気がすると』
『…そうか、此方はカジノから回収して頂けるのが大変有り難いんだが』
『誰か一緒にいってないのか?』
『私かレパルダスをお供に連れて行って下さるのだが、彼奴は気紛れで直ぐ巣に帰ってしまうし私が主を連れて帰る事は難しい』
私が抱えたりおぶったりでもしようものなら、主の体に傷がついてしまう。服は勿論の事、人間の皮膚は薄く柔らかいのだ
『?ああ、その腕か、確かに素晴らしい程に切れ味がいいからな』
『…腕だけの問題ではない、全身の切れ味にだけは自信がある……この前も色々刻んでしまったばかりで…』

等と自分のポケモン達が四方山話に花を咲かせてるとは思わない人間達も世間話に花を咲かせていた。
「話でもしてるのかな、仲が良さそうだ。」
「誰かさんの所為でうちのダゲキはよく誰かさんを夜中に誰かさんの自宅に運ぶ事が多いからな、顔を合わせる機会も多いだろう」
「遠回しに言ってないでもっと直接的に言ってごらんよ?」
「大分気を遣ってやったんだかお前と言う男は!」
「まぁまぁ、君には感謝してるさ、お陰で最近目が覚めたらゴミ置き場に居た。何て事が無いからね」
「……前はあったのか?」
「偶にね…うん、偶に、ちょいちょい?うん、偶にだよ?」

『そうそう、この前お前によく似た感じの奴と戦ったぞ。全体的に白と緑色で胸に赤い棘が生えてたんだ。それで肘から白くて長い刃?みたいのが伸びてそれで戦うんだ』
『ほう、どうだった?』
『切りかかられたり殴られたりする分にはまだ良かったんだが』
『ほうほう、』
『最後にしねんのずつき腹に食らって吹っ飛んだ……』
『…………あれは、貴様にはよく刺さるだろうな…』
『かわせると思ったんだが少し目測を誤った』
『どう言う斬り込みをされたんだ?』
なんたってこの人は贔屓目で見なくても機敏で視野も広い。それが腹のど真ん中に頭突きを喰らう程の隙を曝したと言うじゃないか、一体どんな相手だったのか気になってしようが無い。

『まずこう打ってくるだろ?』
そう言う彼の人はそこいらに落ちていた小枝を拾い右手で逆手に握って、下から切り上げる様な動作をしてきた。掠りそうな距離なので勿論避けて、返す手で首を狙ってきた枝の横腹を払ってやる。
『ほら、少し胴が空くだろ?その後空いた腹を狙って肘を回して刃を回転させて狙って来たから―…刃の側面を蹴って弾いて距離を取った』
言いながら胴に枝を近づけてくる彼の人の言わんとしている事を理解しながらも、読みが甘いなとも理解して枝を地面に払い切った。

『それは弾かせるのが目的だ。弾いた後間合いを取ろうと貴様が下がるのを計算しているんだ』
『二度仕掛けられたからな、二度目はひっかからなかったが』
『私ならもっと気付かせないで狙うし一度で済ませる。まず牽制で小手先で斬り合う。無論貴様は払いながら殴りと蹴りを入れてくるだろう?』
そう言って私はささっと、と言うくらいの速さで腕を動かし彼の人を斬り付けるフリをする、想像通り彼は私の刃を払いながらその隙を狙って攻撃を仕掛けてくる。向こうも此れは想定していただろうな
『その時貴様の勢いを殺す為に懐に入ると言う事はしない、逆に私から半歩下がって腹を曝す』
勢いに押されたようなフリをしながら軽く身を捩って半歩下がると、隙ありと言わんばかりに彼の人は踏み込んでくる。此処からは、経験勝負だ。
『その隙を狙って間合いに入って来る筈の貴様や他の連中を、私は切り刻む。』
互いの間合いが交わる微かで僅かなそこを、私は狙える。現に今、本気ではない検証中の動きの中でも私は彼の首を狙って刃を突き出して。ひた、と刃の横っ腹を首に当ててやった。
『…成る程。言われなきゃ一発貰ってたな』
『右がかわされても私は左があるからな、足も出せるし…此処からは貴様の用心と工夫次第だ。頭に入れておくといい』
『腕と脚だけならなんとかなるが…あ、頭突きされる心配があるだろ?やはり間合いはギリギリまで詰めるべきか?』
『私に限っては頭突きは無い、私が本気で頭突きしたら刺さって死ぬだろ?貴様は特に硬い皮膚してる訳じゃないだろうし、主の指示の時も手加減して位置をずらして頭突きしてるのだし』

そう言えばこいつのアイアンヘッドで本気で瀕死になった事があったなぁ、とダゲキは遠い記憶を脳裏に描く。流石に痛かったなぁ、頭の刃。今も少しだけ目線の上にある頭の刃は鋭く輝いている。
『全く、隙を見せて鈍間を曝したのか、情けない。集中力を切らすからそうなる』
『そういうお前の今の動きだってノロノロだったじゃないか』
『解説に本気は出さん、本気だったら貴様の首はとっくに転がってる』
『お前の腕くらいかわせる』
『ぬかせハゲ』
あー、言い過ぎた。話せるのが嬉しくてついやってしまった。だが残念な事に私の顔は何時も通りの顰めっ面。1ミリモ崩れていない鉄面皮、冗談だと言うつもりで笑ってみたが口の片端が上がった程度の微々たる変化。屹度私の伝えたい意味での笑みとは思われていないだろう、現に彼の人の気配が少しだけ尖りを増した。怒らせたか?確かめようにも口を開けばまた同じ事の繰り返しだ、我が主のように巧く言葉を扱えればいいのになぁ。
そうキリキザンは内心思いながらもダゲキとの無言のやり取りを続ける、しかし長くは続かないと考えていた。お互い口先でやりあう主義ではない、もう幾ばくかもすればダゲキから提案がある筈だ、と。

…………

『やるか?』
『無論、臨むところ』
言葉尻を聞くか聞かないかの所で互いに飛びかかる、思ったとおりの流れでもあるが最初はこんなつもりは無かった。でも結末は望んだものなのでよしとしよう!と心の反省会は後回しにしてキリキザンは戦いに意識を集中させた。

「あれ?君ポケモンに指示出した?」
「いや何も…っおい!ダゲキ!まだバトルの合図を出してないぞ!!」
「キリキザン止めなさい!嗚呼、また玄関ホールがズタボロに…ってレパルダスは喧嘩しない!どうしてそんなにレンブのコジョンドと仲が悪いんだお前は!?」
「コジョンド落ち着け!ああもう、キノガッザとドクロッグ頼む、押さえて来てくれ。ダゲキとキリキザンの方を」
「ズルズキン、ワルビアル。行ってきて、コジョンドに当てられない様にね」
『!?』
ご主人達あんまりです…と言う風な顔をキノガッサ達はしたが命令は命令。自分たちがのされない様に止めるかしかない、とお互いの顔を見て溜息を吐きながらそれぞれ指示を出された相手を止めるべく二組は分かれていった。

*

何やら主達が少し慌てている気がするが、少しでも意識を逸らせばまた彼の人にぶん殴られてしまう。己の周りで乱闘が繰り広げられている様な楽しい空気が伝わってきているがその気配を探る事も放棄して目の前の彼の人に集中する、じゃなきゃ直ぐに終わってしまう。
楽しくて嬉しい、二人だけの時間が途切れてしまう。この時間に終わりがあるという事は理解している、だからなるべく長く永くこの時間を繋いでいたい。明日会えるのか解らないから交わす拳と刃の記憶を胸に次を待つ為にも、永く一緒に居たい。

そう考えるキリキザンの身体能力なのか恋する乙女の力?なのかこの二組の取っ組み合いを抑えるのにレンブとギーマはかなりの時間と労力と精神力を割く事になるのは説明に及ばない。最後には二人並んで始末書を欠かされるのも最近のお決まりなのだから。


モンスターボールの中でキリキザンは今日の出来事を振り返る、彼の人と訓練が出来た事、その件で主からこっ酷く叱られた事、その後みんなで私達が荒らした場所を元通り直すのに結構な時間と労力を取られた事、挑戦者のポケモンをばったばった倒してやった事―…今日は実のいい日だった。
こんな有意義で騒がしいこの交歓には問題もある。一つは私が現状に物足りなさを感じ初めていると言う事、一つは決着がなかなかつかなくなった事、一つは私の調子がどんどん狂ってきてしまっている事―と挙げていくとキリがなくなってくる。

一番の問題は、私がこの感情を言葉として彼の人に告げていないと言う事だ。私は此れを言葉にすると言う事を知らない、どの様な単語で・態度で、この感情を表すのかを知識として会得していないのだ。私は主人の言葉を理解できるが残念な事に逆は未だに適わない。私の声を理解出来ない主人に答えを求める事が出来ないので態度で示すしかないのだが、それも難解だ。不用意に触れれば彼の人が傷付いてしまう、其れは何としても避けなければならない。
しかも私はかなり好戦的な性分もあってかどうも親愛感情を表す術が拙過ぎるらしく、顔を合わせれば嬉しくてつい斬りかかってしまうし、其れを避けられれば益々愉しくなって蹴り上げ追撃を始めてしまう。最近は仲間達から何故か口出しされたりやきもきされるのだ。貴様等、反対しているんではなかったのか?

なので今日も私は主の共として、彼の人と対峙し刃を交わし技を競い合う以外出来ずにいる。






需要は無い、解っています。だが私は書きます!そしてポケモンをダシにしてレンブに毎日ちょっかい出しに行くギーマさんの話でもある。

14/1/16