小説 | ナノ





twiggy(カミツレ、ヤーコン)






初めて会った時は背か高いとか随分寒そうな薄くて短い服着てんだなとか、イヤホンのコード長ぇとか色々外見的特長が目に入ったんだがそれよりもまず、第一印象としての其れがいの一番に口から飛び出していた。
「お前ぇ、ちゃんと飯食ってんのか?」
挨拶もそこそこに繰り出された俺の発言に面食らった様に大きな目を少し広げ、考える様に青い瞳が右上を仰ぎながら返事を紡ぐ。
「…そうね、最近ダイエットしてるから少し抑え気味かも」
「それ以上何処絞るとこあんだよお前」
細いのだ、兎に角細い。もう伸びしろを失った枝先の様に全身が細長いこの女は、多分自分の娘より少し下の世代の年頃であろう。スタイルがいいと言う表現がぴったりだと今時の若い者なら言うんだろうが俺の世代から考えれば細すぎるし、他人だから放っておけばいいものをついうっかりお節介しちまった。
「ジム以外に仕事してんだろ?」
「ええ、結構忙しいんだけどやり甲斐があって楽しい仕事だわ。」
「だったら尚更飯を食え、どんな仕事をしてるか知らねーけど体は資本だぞ」
「…解ったわ、心配してくれて有り難う。」
女の後ろで何故かアロエがやれやれと言った風に肩を竦め掌を上に上げている、フウロは少し慌てていて、アーティのガキはそのフウロを引き止めながら何故か笑いを必死に堪えていた。
「…ねぇミスターアンダーグラウンド?」
「ヤーコンでいいぞ」
「じゃあヤーコン、貴方ニュースはよく見る方?」
「社会と経済のならな」
「そう、なら今日だけ芸能のニュースを少し見てくれない?私出てる筈だから」
「お前が?」
「見てもらえれば解るわ、私が唯の小枝じゃない所も、最高に輝いている所も」
だから、ちょっとだけ時間を頂戴?と伺って来る新たな同僚に「解った、目を通しておく」とまるで部下から書類を渡された時の様に突っ慳貪に返事をしてしまったがあちらは気にしてなさそうに笑って「じゃあ席に着きましょ?」と散り散りに突っ立ているジムリーダー達に声をかけた。今日は新しいライモンジムのジムリーダーの紹介と定例会議だったのを一瞬だけ忘れていた。
そして世事に疎いつもりは無いが、興味のある分野以外に疎い自信は残念ながらあったので、俺はこの女の事を殆んど知らなかった訳だがその日の晩に珍しく見た芸能ニュースで彼女―カミツレの正体に気がつき跋が悪くなった。






彼女はスーパースター

13/11/25