小説 | ナノ





子供のざれごと(デンジ→オーバ)






まだガキの頃の話だ。あんな馬鹿で陽気で、根明で暑っ苦しい、善い人間代表のオーバは周りのガキ共からイジメられていた。
原因はオーバの家庭事情で、オーバはガキの頃から弟の面倒を見るいいお兄ちゃんだったわけだがその状況を見たイジメっ子はオーバを親無しだの貧乏だのと小馬鹿にしていた。
オーバにポケモンバトルで一回も勝てなかった事を根に持っていたのもあったのかもしれないが実際どうだったのかは定かじゃない、寧ろその状況に近かったのは俺だし。だからその時俺はオーバがイジメられていると言うのには直ぐ気がつかなかった。でもポケモンスクールでワザと聞こえる程度の小声でヒソヒソ悪口言ったり、全くコソコソ出来てないコソコソでオーバの鞄を隠したり消しゴムを捨てたりしていればいくら自分の事で手一杯、もう世界なんてどうだっていいぜなんて腐り始め且つ殆んどスクールに行ってなかった俺にだって解った。

オーバはからかわれてるだけだから、別に殴られたり弟に悪戯された訳じゃない。とイジメられてるのを否定していたが、どう見てもイジメだった。珍しく行ったポケモンスクールでみたのはまるで空気の様に無視され孤立したオーバの姿だった。

俺はポケットからモンスターボールを二つ取り出し、ワザとらしく「おっと手がすべったあぁ〜」なんて言いながら上に軽く放り出した。中から飛び出したのは俺にとっても懐いているピカチューとテッポウオ。
「え?デンジ、お前何ポケモン出してんだよ」
「先生におこられちゃうよデンジ君」
デンジはそれ等には答えず、ピカチューとテッポウオがじゃれあい、テッポウオが水を噴射して回るのを黙って見ていた。「うわ!何すんだよデンジ!」とか「きゃ!」「ちょっと!濡れちゃったじゃない!!」とクラスの面々が口々に文句を言ってくるがそんなのは聞こえない。
実はボールから出す前に二匹に小声で指示をだしていたので俺はまたわざとらしい声を出して驚いたフリをする。
「だめじゃないかテッポウオー、みずでっぽうなんか使っちゃー。ピカチューも落ち着けよ〜」
ピカチューの赤いほっぺたがパリパリ、とか細い音を立て始める。そろそろだな、俺のピカチュー興奮すると電気洩れするんだよね〜
「デンジなにしてんだよ、ピカチュー危なくないか?」
「オーバ、出るぞ」
「は?え、ちょ?」
棒読みの俺の言葉に疑問を抱いたのかピカチューの様子を見て焦ったのか、席から立ってきたオーバの腕を掴み無理矢理鞄背負わせて教室を出る。
するとタッチの差で教室が眩く輝き、悲鳴の大合唱。直ぐにポケモンをボールに戻すと俺はオーバと一緒にポケモンスクールから飛び出した。後ろから先生の怒鳴り声が聞こえるけど、無視して浜辺まで逃げた。

全力疾走し続けた俺とオーバは砂浜で足を取られつんのめりながら転がって砂塗れになった、いって〜とかうわ、汗で砂がひっつく!きしょい!なんて二人で連呼して服やズボンの砂を払っていると、オーバが頭の砂を振りまきながら俺に詰め寄ってきた。
「デンジ!あんな事したらお前明日からポケモンスクール来れなくなるだろ!!」
「いいよ、おれ頭いいし」
うわ、いやみ!なんてオーバは言うが何とでも言えばいい。ポケモンスクールの先生にはありのまま伝えて、ポケモンは捕まえたばかりでまだあまり言う事を聞かない事にしておこう。実際バリバリ言う事聞くけど
「それよりオーバー」
「ん?」
「お前イジメられてんだろ?」
「いじめじゃねーよ」
「先生知らないのかよ」
「先生の前ではふつうなんだよ、だからいじめじゃねー」
それがいじめなんだぜ?そう言えば、ぐぅだの、んぐん、だの声を詰まらせオーバは俯いて砂浜に腰を下ろした。俺も其れにならい隣に座る。夏が近付いてるからか、ケツにつく砂は少し熱い気がする。
「なぁ、やり返してやろーぜ、お前この頃1人なんだろ?何も悪い事してないのに、お前がそんな目にあう必要も筋もねーんじゃねーのか?」
「いいよ、別に」
「なんでいーんだよ、友達いなくなっちゃったんだろ?」
きっとさびしいだろうし悔しいし、悲しいに決まってる、俺だって本当は1人はさびしいけれど、大好きなポケモンもそばにいるし楽しいメカいじりも工作もある。言わば友達じゃなくたって俺はがまんできる。でも、オーバはちがうと思った。
オーバは友達もポケモンも大好きだからがまんできなくなるにちがいない。そう考えて言ってやった俺の耳に、全く想定外のオーバの返事が届いた。

「お前がいればいいもん」
「はぁ?」
「俺は、デンジが友達でいてくれればそれでいい」
デンジがいればさびしくないし、家に帰ればバクだっているしヒコザルだってミミロルだっているもん。だからさびしくない、そう言って膝を抱えて小さくなったオーバが鼻を啜る音が聞こえてきたが言われた俺の方がせつないやら泣きたいやら、何だか気恥ずかしいやら嬉しいやらとごちゃごちゃになって砂浜に頭から潜ってしまいたかった。
別に特別暑い日でも晴れていた訳でもないけれど、俺はその日の波の音も太陽も青い空もよく覚えている。そう、それは……もう随分と前の思い出だ。


*




なぁオーバ、


お前も俺も、もう1人じゃないしそれぞれのコミュニティだって持ってて他人に僻まれてもおおっぴらに苛められない程度の地位も持ってて、そもそも孤独に耐えられる神経も精神も備えてる。

アレが子供時代の戯れ言だって言うのには気付いてる。

でも、あの言葉が俺にとって唯の戯れ言でも、淋しさの極まった子供の世迷い事でもない違う意味で今も時折耳の奥で再生されているとお前は知ってるだろうか。

四天王なんて偉くなっちまった、誇らしい俺の幼馴染はとても遠いところにいるのだと、この金属塗れの部屋の真っ暗な天井を眺めながら戯れ言を脳裏で繰り返した。






ゲーム的な流れでいくとオーバが四天王なってデンジもジムリーダーなって、自分とオーバの立場の差とか力量の差とか開いてるなー、でもって挑戦者ちょっと物足りないなーって世界に倦んでるデンジ。オーバの過去捏造甚だしいですがご勘弁を。

13/11/24