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牽制と宣告(カミツレ→ヤーコン)







「カミツレさん、一言お願いします!」
「カミツレさん!先日のファッションショーのオーナーと親密なご関係だったんですか?」
ああ、しつこい。あんな人間関係にだらしがないってモデル仲間の間で噂(実害あり)の男と誰が親密になりたいって言うの?
「そのオーナーの今回の事件へ、出演者達は関係あるのでしょうか?カミツレさんは関与されてるんですか?」
そんな訳ないじゃない!私も仲間達も、オーナーの部下の人達やデザイナー達や奥さんだってお子さんだってとんだいい迷惑だわ。
「今回の出演料はいくら貰ったんですか?」
今回のショーはチャリティーの為にやったんだからお金は誰にも一銭も入らない。態々聞いてくるのは相変わらずやらしい記者ね、貴方。それ以外聞きたい事無いの?
「カミツレさん、カミツレさん!」
「うちのカミツレは何の関係もありません!退いて下さい、通して通して!!」
マネージャーが私を庇う様に横に立ち、記者を押し退ける。彼の為にもと私は足早に駐車場に向かい続ける。車に乗るの止めてゼブライカに乗っていこうかしら。この前こっそり乗ってみたけど意外と乗り心地良かったし…
「カミツレさん、この前噂の男性からプロポーズされたとの事ですが本当なんですか?勿論お受けしたんですよね?」
あら、これって渡りに船ってやつね。調度良いわ、何も話さないつもりだったけどこの話だけなら乗ってあげるのも吝かじゃない。私はしつこい記者を押し退けるマネージャーの行動を無碍にする事にした。
「勿論、断ったわ」
この答えに記者達がどよめく。それはそうか、確かに彼は若くて何でも持ってるしとても善い人だ。私をモデルやジムリーダーと言う括りでなく私その者として接してくる数少ない良心的な人物でもある。普通なら断る訳が無い、一般的な考えだ。想像通り記者達は何故だ何故だと鸚鵡の様に繰り返す。其れに対し、私は牽制する。
「だって彼は友達だし、私のタイプじゃないんだもの。それに私は好きな人がいるから」
カミツレ止めてくれ!悲鳴を上げて私の言葉を無いものにしようとしているマネージャーは無視しておいて騒ぎ始める記者たちの前に立つとカメラのフラッシュが目に刺さる様に入り込む。ポケモンの電撃より目に優しくない輝きに無意識に目を細める。
「と言う事はカミツレさんに恋人が居ると言う事ですか?」
相変わらず、本当に相変わらずの単純思考に涙さえ出そうだわ。それならどれだけ良かったかしら!でも泣かない、泣いたら牽制にならないわ。自惚れでなく私へのアプローチを考えている他大勢へのテレビを使っての牽制。
「私の片想いよ、でも絶対振り向かせてみせる」
私は片想い中なの、この恋が実るか破れるかしない内は他の誰にも目をくれたりしない。だから、誰も邪魔しないでね。これである程度の人間は振り払った筈、それでも声を掛けてきたら徹底的に拒絶しておこう。
「相手はどなたですか?お相手はカミツレさんのお気持ちに気付いていらっしゃるんですか?」
「彼は気付いてる筈だわ、でも全然見向きもしてくれないし、言葉遣いは悪いし突っ慳貪な態度だし最悪だわ」
相手の情報は一切出す気は無い、迷惑になるし。他にも迷惑を被る関係者は出る筈だし…アーティとか他のジムリーダー達や私のジムのトレーナーも暫くは五月蝿くなるだろうなぁ〜。後で謝っておこう、でもあんまり悪い気もしないわ。今私の頭の中が彼の事でいっぱいだからかしら?
「それでもね、好い所もいっぱいあるの、他の人に伝わらなくたって構わない。どんな彼だって私には愛しい人である事にに変わりないんだもの」
知らずに幸せな顔でもしていたのかもしれない、一瞬だけ記者もカメラマンも息を飲んで私を凝視した。あの人はあからさまに顔逸らすのよ?多分照れ隠しよね、そうに決まってる。
そして屹度このニュースを見ている貴方への宣誓。思い出した様に質問を繰り返す記者と慌ててシャッターを切り続けるカメラマンに、車に乗り込みながらとびきりの笑顔で言い捨てた。

「待ってなさいよ、私必ず貴方のお嫁さんになるわ」






綺麗な女の人がお嫁さんって発言すると何となく意外に感じ素敵だなと思ったのでカミツレさんにやってもらった。フウロちゃんやアイリス、シキミが言ってもしっくりしかこないので多分管理人の感性の問題かと。

13/11/24