小説 | ナノ





お題






::くすぐったい親指(ギマ→レン)

「焦らしプレイは嫌いじゃないよ」
なんて素っ頓狂な事を言ったギーマは、最早習慣になってしまい俺が気にも留めなくなったしつこいハグの後、徐に俺の手を恭しく取り顔を下ろしていく。また碌でも無い事をするんだろうと、さり気なく手を引いて逃げたがギーマの動きの方が一瞬早く―
「っ…ギーマ、」
出来る限り抑えた声で暗に咎めると親指の付け根から唇を離し、顔を上げたギーマの表情は悪人面にも程がある嫌な笑い顔。
「ごめん、つい、ね」
「口先だけで謝るのはお前の悪い癖だぞ」
絶対悪気なんか感じちゃないんだろ?
「そりゃ悪いと思ってないから」
ほら思ってない!
「だって君が焦らしプレイなんてしかけてくるから、それなら受けて立とうかなと」
「しとらんっ」
「まぁ先程も言ったけど私も焦らしプレイは嫌いじゃない」
「だからしとらんわ!」
「思う存分焦らしに焦らしてくれるがいいよ」
「話を聞けっ」
ああ、またこいつのテンポに巻き込まれている実感がふうふつと
「その分君も焦らして、楽しませてあげられるからね」
「―――……」
うん、普通にテンポに呑まれた。
「じゃあ、また後で」
言いたいだけ喋ったギーマが踵を返していく様を見送りながら小さく溜息を落とし親指を人差し指にこすりつけて、指に籠った擽ったさを誤魔化す。
キスされた痕跡なんて欠片も残ってない親指がむずりむずりと、じれったく痒みを帯びるのは彼奴の所為だなんて考えたくない。



::人差し指で堕として(ギマ→レン)

「……人を指差すなと親に教わらなかったのか?」
「いや、教わったけれど…宣言?」
「は?」
「必ず君を私に惚れさせるって言う宣言をね?今からしようと」
「永遠にせんでいい!」



::中指程に君が憎い(ギマ→←レン)

中指を立てて他人を挑発したり、不快感や反抗心を露にする等と言うはしたない真似はした事無いしこれからもする事も無いだろうが、そんな下卑た行為を連想してしまうのはそれ程に彼への不の感情が弥増していると言う事で。其処に気付く己の感性すら今は疎ましい。
どれ程に捧げ、注ぎ擲ってると思ってるんだい?君は。この考えが押し付けがましい事だと解っている、解ってはいるが腹立たしさは治まりそうに無い。どれくらい疑ってくれ様が勘違いしてくれようが構わない、と言うより仕方が無い。流した浮き名と噂は数知れない、其処を咎められれば首根っこをつままれたチョロネコやニャースと大差無く、ぐうの音も出ない俺がいるのだ。
だがそれでも、

それでも、その頑なな扉から手を差し出して、ほんの一欠程でもいいから答えを示してくれたっていいじゃないか。


可愛さ余って憎さ百倍



::にやにや薬指(ギマレン)

にやにやにや

朝から緩みっぱなしの顔に、挨拶を交わしたカトレアの口元が引き攣ったが其処は深窓の令嬢と名高きカトレア、一瞬で何時もの表情へと切り替えた。

「……ずいぶん上機嫌ですこと」
「そりゃもう、居もしない神様に感謝する程にね」
ポケットに入れていた手をあからまさにちらつかせれば彼女に顔は数瞬の考察の後、納得と呆れの表情を映して。
「…うかれるのはかまいませんけれど、バトルでみっともない姿だけはさらさないでちょうだいな」
「それはもう!ちゃんと弁えているさ」
「………とりあえず、まことにおめでとうございます」
「ご丁寧に有難うございます」
紳士と淑女の絵画の様な恭しい祝辞と返礼を述べ合って、持ち場へと別れた。



にやにやにやにや

昼も近くなったのにも関わらず緩み続けている顔に、昼食を誘いに来たシキミがあからさまに気色悪がった、失礼なやつだ。
「ギーマさんが『極悪人も裸足で逃げ出す様な悪の極み』みたいな顔してる!」
「今度は推理物でも書いてるのかい?シキミ」
「挑戦者の方が腰抜かしちゃいますよ!!」
「残念、挑戦者が今日はまだゼロだ。」
「で、何良い事あったんですか?珍しくご機嫌じゃないですか」
噛み合わない様でいて噛み合う会話は付き合いの長さが齎したものだ、テンポ良く進む会話は心地が良い。
「そりゃもう!天にも昇れるくらい良い事さ!」
大袈裟に肩を竦め掌で宙を仰いで。はらりと指をはためかせると昨日迄とは違う動きが指に加わっている事に、シキミはさっと意識が行きそして、悲鳴の様な雄叫びを上げる。
「えええええーーーーーー!?!?!?何時ですか?何時?誰と?ギーマさん到頭??取材させて下さいよ!!」
「君はゴシップ雑誌の記者かい?動きが気持ち悪いよ」
そんなに無かった距離を更に詰め、怒涛の勢いで捲くし立てるシキミに、全く動じずにからかうギーマは顔以外は通常運行である。
「だってだって、ギーマさんがそんなっうわわ〜〜!夢にも思いませんでしたよ!!」
「大袈裟だな君は、俺だって一般的な感性を持ち合わせてる普通の人間だけど?」
それでもギーマさんは普通じゃないですよぉ〜、とかなんかとか宜ってるのはからかわずに無視した。それくらい今は機嫌が良くして仕方が無い。
「はわー、それにしてもギーマさんがぁ………で?お相手は?」
「後で、落ち着いたらちゃんと紹介するよ。」
「絶対ですからね!今度みんなでお祝いしてあげますからね!おめでとうございますギーマさん!!」
「うん、有難う、シキミ」
祝われるのは悪い気分ではないので今日のランチはデザートくらい奢ってやろうかなと、やれ「プロポーズの言葉はなんだ」だの「式は挙げるのか」だの手帳片手に付いて回るシキミをあしらいながらも足元は軽かった。

何たる浮かれ様だろう!?この私が!ポーカーフェイスが売りの四天王ギーマともあろう男が!!嗚呼でも、この今にもスキップしかねない程の喜びは抑え切れず顔に現れ、私と言うキャラクターを破壊していくのだ。



にやにやにやにやにや

今日の勤務が終わろうとしているとっぷりくれた夜、未だ緩みの治まらない顔の儘、終業の準備に取り掛かる為ギーマはレンブの持ち場へと足を運ぶと、それはそれは嫌ぁな感情丸出しの顔で出迎えられた。

にやにやにやにやにやにやにやにや……
「……………何だ、」
カトレア曰く「浮つきすぎた顔」、シキミ曰く「極悪人も裸足で逃げ出す様な悪の極みみたいな顔」を崩さず、あからさまにこれ見よがしに左手をちらつかせれば大きな溜息を吐いて漸く目を合わせてくれた。
「何が言いたい、」
「見て解らない?」
「…顔が気持ち悪いぞお前、」
「うわ、一日振りに顔合わせて初めての会話がこれ?少し酷くない?」
否、かなり酷いよね。うん、酷い。
「お前こそ、まさかとは思うが一日中その顔を曝していた訳ではないよな?」
「まさか、曝しまくってましたけれど?」
「さっ!?おまっ」
「残念な事に挑戦者ゼロで誰にもお披露目出来なかったけどね」
一生すんな。なんて突き放した様なツッコミも慣れたもので、組まれた腕の中に隠された其れを指差しながら確認してみる。
「着けてる?」
「…何をだ?」
「言わなくても解ってるでしょ?」
ほらほら、と再びあからさまに目の前で左手を振ってやればクズを見る様な眼差しで押し殺した返事をしてくる。あら、少し怒らせたかな?
「………………見せびらかすものでは、ないだろ?」
「仕事の邪魔、とか言って外してリビングのテーブルに置いて来たとか言わないよね?君なら有り得るんだけど……」
「流石の俺も其処までの冷血漢ではない。」
きっぱりと言い放つレンブは何時も通りの表情を繕っているつもり―…だろうけど、その忙しい足下を見れば落ち着きなんて何処にも無いのが一目瞭然だ。
「どうだかねぇ〜」
「…………………………ちゃんと着けてる!」
ねちっこい質問と視線の応酬に耐え兼ねたレンブは、ああ!もう!と言わんばかりに左手のグローブを外す。そしてその勢いの儘ギーマの目の前にずいっ、と左手を突き出した。その手の薬指に光る、レンブには似つかわしくない輝きにギーマは満足気な溜息を溢した。
「いやぁ、感慨深いねぇ」
「おれはまだ混乱してて何がどうなのやらさっぱりだ…」
「混乱も何も、これが全てじゃないか。俺が君の夫で君が俺の嫁、名実共に、昼と夜の生活諸共に!」
「今、目の前で外してやろうか!」
「そしたらまた填めてあげるよ、昨日みたいに」
「きのっ…ギーマ!この馬鹿!」
昨晩の告白劇が脳裏に甦ったのか、もう我慢出来ないと言わんばかりにレンブはしゃがみ込んで、顔を頭を隠してしまったが隠し切れない耳や頬はその浅黒い肌でも解る程に紅色であった。相変わらずの純情さに、堪らずギーマはさっと屈むと両腕を伸ばしレンブを抱き締める。
「恥ずかしがらないで、嬉しがってよ。」
やっと形になったじゃない。万感こもる声音に、また顔が赤々と燃え上がった。ちらりと目配せた先にあるにや付いている筈の顔はどう見ても多幸感溢れる、それは美しいものだった。

素でチャンピオンの存在忘れてました;



::小指絡めて幸せの温度(ギマレン)

「レンブ、指切りしようよ」
「ユビキリ?」
初めて聞いた単語だと、レンブは読んでいた雑誌から顔を上げて、隣に腰を下ろしたギーマを見つめる。
「カントウとかシンオウ、あっちの地区でやる約束の仕方」
「…お前に約束が出来るのか?」
何たって戯言を吐き散らす性質があるからなお前は。
恋人の冷静な一言に自分の誠実さが欠片ほどしか伝わっていないと言う事にギーマは気付き、内心項垂れた。君と付き合い始めてから、君にそんなに嘘を吐いた事無いんだけどなぁ
「…約束が出来る、と言う事を約束しようじゃないか」
「物は言いようだな」
その程度のカードの切り返しじゃめげないぞ?まず、しようよと、レンブの機嫌が下降していかない内に話を進めていく。
「まず小指以外の指を握って相手に差し出す。」
「ふむ」
「で、互いの小指を絡める」
「ほう、」
「次に手を上下に揺すりながら歌を歌う」
「ほう」
「指きり拳万、嘘吐いたら針千本呑ーます」
「随分と物騒な歌だな!お前の替え歌じゃないだろうな!」
「失礼な、ジョウト地方のジムリーダーに直に聞いたんだぞ。間違えてはいない」
「ジョウト行ったのか?」
「結構前にね、」
「いいな、ジムに行ったのか?強かったか?」
俺も行きたいな、と滅多無いお強請り発言を聞き逃す筈が無く、今度の休み、一緒に行こうと囁くと何時も大人でいるべきである、と義務感や責任感や真面目な気質で厳しい光を湛える瞳が子供の様に輝いて、控え目に「うん」と頷いたのに、また内心で今度は酷く悶える。今度友人のカミツレやアーティに惚気てやろう。
「で、最後に指切った、と歌い終わったら揺すっていた指を切り落とす様に引き離す」
「ま、益々物騒で不気味だ」
「切った指預けるから約束守って逢いに来い、それでも嘘吐いたら拳骨万回、針千本飲んで詫びろって意味らしいからね」
「其処迄激しくしなきゃならん約束ってなんだ!?条約レベルでもそんな事せんぞ!」
「だから、どうしても破られたくない約束に使うんだそうだ。」
「…………其処までしたい程、お前は何の約束を俺に取り付けたいんだ?」
落とした指を腿の上にあげレンブはギーマに尋ねる。それは訝しむと言うより本心からの疑問であるらしい。
「なに、酷く単純で小さなお願いさ」
それ故態々約束したかったんだ、とギーマはレンブの手に己の手を重ねながら願い事の様に約束を囁いた。

「これからも、君が共に歩んでくれます様に」

じわぁあと、レンブの手が熱を増していくのが重ねた掌から伝わった。瞬時に手を跳ね除けられないだけでも奇跡だと、大袈裟ながら思ったのに数瞬後のレンブの行動は何と表現したらいいんだろう!?
「……そんな約束なら、何度でもしてやる」
再び小指を絡めてきたその手は酷く熱っぽくて、声は何時もの溌剌さを失い不明瞭で籠った声。でもそれらが示す事実はなんとも愛しく幸福な現実しか俺に寄越してこないから、俺の返事も上擦って湿り気を帯びた。

「ずっと共に歩もう」





タイトル::くすぐったい親指 13/9/12〜13/9/22