小説 | ナノ





It never rains, but it pours.






fall dawnの続き






同僚のギーマに告白されると言う椿事の起こった今日、混乱しながらも仕事を終わらせ家に帰った俺は冷静になれ、レンブ。と自分に言い聞かせながらギーマの真意を考えていた。

ギーマは俺を好きだと言った。

どう言う類の意味でかは聞かなかったが互い良い年した大人だ。あの状況下に於いてギーマの発した好き、がlikeでは無い事くらい、いくらこういう方面に明るくない俺でも理解出来る。
ギーマが本気かどうかと言うのは本当に疑りたい心境である。しかし、決して長くない付き合いだがギーマの本気の表情くらいは何度か目にしているしその顔を眼を向けられた事もある。ポケモンバトルに限った事だったが件の獰猛で人の悪い笑みとぎらぎら燃え滾る冷たい青色の瞳に曝され、武者震いをするものだが…バトルだけにして欲しかった、その本気。
そして最後に「どんな勝負も自分から降りたりしない」とも言った。つまり、曖昧な態度でその場を後にした俺を諦めない。と言う事だろう、諦めない、とは俺と…その、恋 人、になると言う…………事、だよな?なぜ疑問系なんだ、でも俺はギーマではないから真意は解らないし。

…………はあ、

冗談じゃない、好きだと一方的に告白され「返事は要らない、唯告げたかっただけ。忘れてくれ」と言われても気になるのに、「自分からは降りない」とギーマの名言迄使って俺を恋人にすると宣言してきたなんて。明日からどんな顔をして彼奴と会えばいいと言うのだ。そして「NO」と何度か拒絶したにも関わらずめげた素振りの無かったギーマが明日どんな行動にでるのやら…恐ろしい。これで「Never give up!」何て言われたら益々怖い、流石に引いてしまうだろう、しかしシキミやカトレア、ポケモンリーグの職員他ジムリーダーや他所のトレーナーに知られるのは得策ではない。寧ろ誰にもバレてたまるか!溜息の一つも吐きたくなる現実、そして本当に本気なのかも疑らなければならない、なんたって相手はあのギーマだ。本気の顔して何枚面の皮を重ねてるか解りやしない、仕事仲間にこういう言い方は失礼かもしれないが何年付き合ってもギーマの腹の底は見える気がしないのだ。ギーマやシキミほど頭が回る訳じゃないのに…しかも苦手な恋愛関係で頭を悩まさなければならないなんて。

あーだこーだ、そうこう思い悩んでいる間に空は白み、朝靄に朝焼けがレンブの部屋を鮮やかに彩り始める。嗚呼、眠れずに朝を迎えるなんて、何たる不摂生!!しかも解決する兆しは掴めていない、何て事だ!!!

だがもだもだしている内に出勤しなければならない時間になる。正直職場に行くのに勇気がいるが、仕事は行かねばならない。この仕事に代役はいないのだ。心なしか重い足を動かしながらリーグへ向かう。チャンピオンロードで特訓をしているトレーナー達と挨拶代わりのバトル、出入り口に立つ男に挨拶、ポケセンの販売員たちとすれ違い挨拶、更衣室は到着が遅れた所為か誰もいない。3人の持ち場を確認しても3人ともいない、そうすると行き着くのは――給湯室兼談話室。行きたくない、心は行きたくないが挨拶をしない人間はよろしくないので、心と体を誤魔化しちぐはぐな儘談話室に足を向けると談話室から微かに漏れる声、ああやはり3人揃っている。些か大袈裟だが覚悟を決め談話室の扉を開けると振り返り見上げるギーマと目が合った。うわ、一番目を顔を合わせたくない奴といきなりか!昨日の出来事が脳内と目蓋の裏にありありと描かれそれでもぎこちない儘でも挨拶をしなければと口を開こうとした時、先にあちらの挨拶が飛び出してきた。
「やあレンブ、お早う」
その声が言い方があまりにも普段通りで、レンブは拍子抜けする前に憮然としてしまう。俺がどれだけ思い悩んだと思っている!そんな俺の前にどの面下げて挨拶してきてるんだお前は!口には出さないが態度には出た。警戒心と不満感丸出しの俺にシキミとカトレアが不思議がる。
「ギーマさん、レンブさんになにかしたんですか?何時もより距離感がありますよ?」
「別に何も。ちょっとしたディスカッションのヒートアップがあったくらいだよ」
「それは、口論というものではなくって?また喧嘩なさいましたの?おすきですのね」
「これは心外だな、争いが好きな野蛮な男達に見えるのかいレディ?」
「あたくしが四天王になるまえは、ずいぶんとさかんに喧嘩なさっていたとうかがいましてよ?」
「おやおや、シキミ、君なんて事吹き込んでくれたんだい?私達誤解されているじゃないか」
「混じりっ気無しの事実だと思うんですけどね〜」
「レンブ、ちょっと助太刀してくれよ。昨日は何時も通りだったって」
それを言われたいのは俺の方なんだが……何かもういい、何だか知らんが何もかもどうでもいい。談話室から半分体を出した形で受け答えしながらも一応社交辞令的にギーマをフォローしてやった。そう、「同僚」として!
「………まぁ、概ね何時も通りだった……俺は持ち場に行くぞ」
言い捨てて、談話室を後にする。どうでもいい、と言う投げやりな心の中からそれでも浮かんだのはやっぱり、と言う仮説通りの結論と、それが事実だと言う事への安堵感だった。







なんだ、何時ものギーマじゃないか。

ぺたぺた、と床に足裏が貼りつく音を立て歩きながらレンブは胸を撫で下ろす。矢張り昨日のあれは俺をからかっていたんだ。そりゃそうだ、好き好んでこんな男に好いたの惚れたはれたと告白する男が何処に居ると言うのか。………まぁ、過去にいなかった訳じゃないけれど。それとギーマが同じ人種という訳では無い筈だ。
俺の考えすぎだ、ギーマに限ってそんな事…忘れよう、何時までも他人の悪ふざけを引き摺るのは俺の悪い癖だ。そう自分を嗜め、さて持ち場へ急ごう!と歩幅を広げようと足を上げた瞬間、
「で、昨日の事考えてくれた?」
「?!」
意識の隙間に挿みこまれた様なタイミングの言葉とその声の近さに、体は咄嗟に距離を取ろうと動き逃げたが、するん、と手首を取られた。ぼんやりとま温い体温―寧ろ冷たくて色の白い手が緩く絡まり、見上げてくる視線も絡まってきた。その浅い青い瞳の収まった目は先程の表情も空気も全く醸していない、出でるのは昨日のあの時の―…
「逃げないでよ、寂しいじゃない」
「っ」
弾く様に力いっぱい腕を振ると難無くギーマの腕は離れ、それを驚いた様に、でも他人事の様に見ながら此奴は笑う。
「おや、つれない、」
「昨日の事、だと?」
絞り出した声は硬い、だがそれで壁を作る。あれは冗談だろ?お前の何時もの悪ふざけ、そして俺の反応を楽しんでからかって終わり。その証拠がさっきの態度だろ?無理して今更雰囲気出さなくていいんだぞ?頭の中はよく喋るのに、口からは全く出て行こうとしない、目の前の男のように回らない口が、恨めしい。
「ちょっとは私の事気にならないかい?」
そんな昨日を悪い夢だと思っておこうとしてたのに、ギーマはそれを完璧な現実として俺に突きつけて来た。
「意識したりしない?恋愛的な意味でさ」
嗚呼、蟻の巣穴くらいの可能性で考えていたけどlikeがよかったんだがやっぱりlikeじゃなかった。loveだ、完全にlove。で、全力で否定や拒絶をしなかった為今また、迫られていると?

俺は昨日、ギーマに本気で向き合わなかった事を心底後悔した。

「それともまだ混乱してる?」
「……昨日言った筈だ、答えはノー。だと。」
「徹夜して迄私の事考えてくれてたんだからもしや、と思ったんだけど。ノーだったの?残念、二敗目か」
「っ誰が徹夜して」
「目の下に隈。そんな顔始めて見たよ」
そ…と俺の頬に目元に触れようとギーマの腕が上がってくるがさり気なくかわしつつ図星ではあったが口では否定する。
「これは違う!決してお前の事を悩んで考えて徹夜したとかそういうんじゃない!」
あれ?今俺墓穴掘った?ニヤニヤと笑うギーマの顔に間違い無く墓穴だったと気が付いたが、努めて表に出さないよう顔を背けた。
「…ま、いいさ。今日は引き分け、決着は明日に持ち越し」
「明日も変わらない、ノー。と俺は言うだけだ」
「どうかな?カードも出揃わぬ今、言いきっていいのかい?」
「どう言う事だ」
「相手の手の内を全て見ないうちに己の全てを曝け出すもんじゃないよ、正直者は勝負で馬鹿を見る。そして、未来は確約されていない、誰にも出来ない。レンブ、決め付けちゃあ駄目だ言い切ってはいけない。其れは自分の底を自分で決めつける様な行為よりも愚かしい」
真剣な顔と声で問うギーマに固唾を飲んでいるとふ、と何時ものギーマの表情へ戻り
「ま、明日楽しみにしててよ、」
と俺の肩を叩いて通り過ぎていく。何だか悔しくて「花束でも持ってくるつもりか?」と有り得ない提案をしてみたら「そいつぁいい、名案だ。」と口だけで冗談めかし乗ってくる。なんて悪乗りの軽さ。俺には出来ん。
「じゃあね、持ち場に行くよ」
去っていくギーマに、口先だけの男め、と内心で悪態を吐いた。だが、その悪態は次の日には使えなくなった、だってそうだ。

まさか本気で花束抱えてくるとは夢にも思わなかったんだ!

「本当は薔薇で口説くのが定番かなって思ったんだけど君って薔薇の感じじゃないなーって思って、どうかな?似合うと思うんだ。向日葵、あ、花は嫌い?」
お前に薔薇はさぞかし似合うだろうな…だが、向日葵はなんか……笑える。マジでやるなんて考えてなくて、本気で持ってきたギーマの勢いで、つい受け取ってしまった。気持ち悪いとか考えられなかった、もしかしたらこいつ、馬鹿かもしれない。なんては考えた。だって凄い真剣な顔して、そこいらの女性ならもう「はい喜んで」なんて言ってしまいそうな綺麗な笑い顔を作って俺に花束差し出して来るんだぞ?
「やっぱり似合う、君には明るい色が似合うね。でも花よりも君の方が素敵だ、凄く素敵だ。帰りカフェにでも行かないかい?」
「………いや、遠慮する」
「じゃあ今晩食事でも?」
「それは益々……遠慮する」
「残念、ランチくらいは?」
「…何時も4人で食べてるだろ」
「私の愛しい人はつれないなぁ、そのつれなさが私の君への愛おしさを掻き立てるというのに」
「…………まあ、花は、有り難う」
その口説き文句はノーセンキューだ…と静かに告げると大袈裟にがっかりしたポーズをとった。だが、決してめげてはいないようだった。そしてこれが始まりだったと、誰が想像しただろう。

でも、だって、だが!こんな接続詞も副詞も連呼したくないがそれでも次の日も!

その次の日も次の日も次の日も、手を変え品を変え、言葉を変えてギーマは俺を口説いてきた。なら、好い加減慣れるだろと無責任に人は言うだろう。けどな、あそこ迄手を変え品を変え、息も吐かせない攻撃と口撃への対処や慣れなんて何処からも湧き上がりも発生もしない!!そりゃ花束の日みたいに硬直する事は無かったが何時・何処で・どの様に口説かれるのか解らないある種洞窟の中でのポケモン修行並みの緊張を強いられる毎日。お陰で鈍っていたと思われる勘は―…結構良くなったが
その緊張感の中、この行動にはある種規則性があるのだと2週間程経った頃、不意に気がついた。

この男は、周囲に第三者がいる時は全く以前と同じ態度で俺に接してくる。だが、通路ですれ違ったり更衣室で一緒だったり…縦しんば二人きりになった場合、豹変する。つまり、口説いてくるのだ。つまりタイマンで口説いてくる、し。
「ふふ、君、やっぱり良い体してるよね……」
するり、と袖口から掌を滑らせギーマは俺の胸板を撫で回してくる。その手付きがあんまりにも気持ち悪くで鳥肌を立てながら「んぐえ」と訳の解らない悲鳴をあげる。
「んな、なにする だ、」
「スキンシップスキンシップ、健全な交遊はスキンシップから始まるんだよ」「何処が健全っんぎゃおぉお」
「腹筋凄いなぁ〜触っただけでも解る、鍛え方違うね。後背中もごつごつ…」
「何処をどう触っ! むぁあぁあぁあぁあ〜〜〜……」
…等、かなり激しめのスキンシップを図ってくるようになった!毎日毎日、仕事の度に口説く・セクハラ、口説く・セクハラの二回連続攻撃。口説かれるだけならまだ我慢出来たが肉体への攻撃、しかもこう、性的なものは流石に我慢の限界がある。何度か抗議したものの彼奴は何処吹く風、今もそう―
「ギーマ、何時迄このセクハラまがいのスキンシップを取り続ける気なんだ?」
「セクハラと思ってるの?随分意識してくれてるじゃないか」
「世間一般的な目線で見た場合の事を言ってるんだ!俺の個人的感性で告げている訳じゃない!」
「なんだ、つまんないな。もっと気にしてくれてると思ったのに」
色んな意味で気にしてるぞ?色々な意味合いでお前の事を考えているぞ??何時同僚止めさせてやろうとか、何時警察に突き出してやろうかとかそれとも俺自身の手で引導を渡してやった方がいいかとかとか!!
「こんな事されたって好意は芽生えないぞ。」
「じゃあお試しで付き合ってみない?」
「お前の恋愛は家電製品と一緒か!何だお試しって!」
「やっぱり怒った、怒るとは思ったんだけど」
「なら言うなよ!」
「だって想像とは違う反応があるかもしれないじゃない。沈黙は金だって言うけど恋愛においては金も勝利も成功なんかも生みやしない、沈黙してたら恋と愛は逃げるんだよ」
確かにそう言う諺があるけど!実践するか?しかも相手は同性で同僚で、冗談も通じにくい恋愛関係においてはかなり鈍感な(これは自分で考えても流石に気付か無すぎだったと反省した。)筋肉ムキムキだぞ。ごついんだぞ、その他にも問題なんてなんぼでも出てくるんだぞ!寧ろどれだけでも出せる、頭捻らんでも出せる!!
「数打って当たるんなら当てる迄私はやるね!質も入れろと言うんなら気合入れてやる!!」
「成功する可能性なんか本当に低い事に全身全霊を傾けるんじゃない!妥協しろ、お前そう言うの得意だろ?」
「妥協なんかして堪るか!可能性があるんならそこに付け入、否賭けるのがギャンブラーの生き様だよ君!」
「こんな事に真面目になるな!仕事を真面目にしろぉお!!」
確かに仕事は概ね真面目だけどこの男!しかし今付け込むって言おうとしたよな?おい、目を逸らすな、詰め寄ろうとしたら道着のファスナー下ろされて堂々と胸板掴まれて…流石に殴った。それでもギーマの手は俺の胸から離れなかった…最早溜息しか出ない。



告白から3週間ほど経った今日この頃、ギーマの告白とセクハラ紛いのスキンシップは続いている。そして、それを跳ね除けかわし、少し疲れるな、なんて考えていた今日。談話室からの帰りの通路で、ギーマとすれ違った。今日は足を速めてスキンシップを取ったり口説いたり、と言う気は無いらしく普通に世間話のようだ。良かった、軽く身構えつつも、気の入った肩の力を抜く。
「やあ、今日どうだった?挑戦者来た?」
「いや、まだ1人も来ていない。そっちはどうだ?」
「こっちもゼロ、最近力不足なのが多いよね。」
「ああ、まったっ――!?」
一瞬だった、何だ、ギーマが近っな、 ん、でこんな画面がボケる程の距離、苦っ!不味!?う、わ  うわっ?!これって、ちょっこの野、郎!!
「っ 」
此奴今なにしてやがった!力任せに引き剥がすと抵抗も無く、と言うより体格と力の差であっさりとギーマは剥げた。剥がされたギーマは不満を隠す事無く俺の胸倉を掴んだ儘告げてくる。
「何で逃げるの、まだ途中だ」
「何がまだ途中だ!何するんだお前?!」
「キスくらいで何驚いてるんだい?流石に初めてじゃないだろ?」
「そういう問題じゃないわあ!!」
強がったが実は初めてだった、あからさまに嫌そうに唇を擦って拭ったら「感じ悪いよ」と嫌味を言わる。がその言葉そっくり其の儘お前に突っ返してやろうか!
「そもそも何で同僚のお前と職場でキスしなきゃならないんだ!」
「何故って?私が君を好きだからだよ?君がまだ私が本気じゃないとか冗談とかからかってるとか考えてる様だから、本気だって言うのを証明しようかなと」
「証明?今の悪ふざけがか?!」
「巫山戯てない、本気じゃなきゃ流石の私でも男相手に舌入れてキスなんかしないよ」
「舌入れる気だったのか…」
初めてのキスが同僚の男とで、しかもディープキス…どんな苦行よりも敗北よりも脳裏に焼きつくな。黒歴史として。
「大丈夫、私結構キス巧い方だから、任せて」
仕切りなおし、と襟を掴んで再チャレンジしてこようとするギーマを本気で阻止する。
「させるか!」
襟を掴む腕を剥がすよりも首を後ろに思い切りそらしてキスを拒絶。その内背筋も後ろへ反れ始め上半身も後ろへ、体が定規の角のような傾きになって、漸く「其処まで嫌がるかな〜?」と呆れ口調のギーマが襟から手を離す。ギーマが離れていく気配を確認して、レンブもやっと上体を起こして捲くし立てた。
「普通はっ嫌がるっもんだとっ思うがっ!?しかも滅茶苦茶不味い!苦い!お前なんだあれは!」
「真面目だねぇ、キスくらいで。あ、そう言えば煙草嫌いだったっけ?ごめん、今吸ってた。だから苦かったんだよ、次は気をつける」
「お前不真面目にも程がある!煙草だけの問題かあー!おまけに次は無い!」
「そんな真面目な君、教えてよ。どうしてそんなに嫌がるの?」
「お前は男で俺も男で、俺達は同僚だ、その大前提が覆る事は無い」
チャンピオン―師匠の居ないポケモンリーグをシキミ、カトレアと共に守る…それこそ掛け替えの無い仲間と言っても良い相手なのに、何故恋愛感情が出てきた。一般的にこの様な連携と靭帯を組んで生まれるのは連帯感と友情と仲間意識…といった集団意識じゃないのか?
「お前に恋愛感情は抱いていない、が俺の見解だ」
「でも私は君が好きだ、恋愛感情こみで」
「俺は違う、この好意は友情と仲間意識と連帯感からくる敬意だ」
「それは勿論、私だって感じてる」
「ならそこで満足しろ、十分じゃないか。」
「だから、試しに付き合わないかと言ったんだよ」
そこで何で、だから〜に繋がっていくんだ。訳が解らんぞ、訳が。顔に出ていたようでギーマがつまり、と前置きをしながら説明をしてくる。
「君は私の話が唐突で、突拍子も無く、自分の気持ちの整理も出来ていないしその判断出来ない心情なりにそれでも前面に出てるのは親愛と友情だから私と付き合う事は出来ない、と言ってるんだろう?」
「…それだけじゃないが大凡あってる」
「要するに君の気持ちの整理がついて、もう少し冷静になれれば交際出来る可能性が出てくる、と言う事だよね?」
「なんでそんな曲解に至ったんだお前!」
「曲解じゃない、要約だよ!」
「意訳しすぎだわ!」
「拒絶と押し問答だけじゃ何時まで立っても冷静にならないよ、なら、少し腑に落ちなくても付き合って互いを知り合う努力をしたほうがいいとだね」
「駄目だ、お前の術中に嵌って堪るか」
其の儘なし崩し的に本当に恋人にされそうだ。
「済し崩しに恋人に出来るとは思っていないさ、そんな勢い任せで落とせる相手だなんて考えちゃないよ」
人の頭の中を読むな、此奴やだ、頭ん中どんだけ回ってんの?
「私が恋愛対象外だと言うんなら其処まで引き上げられる様根気よく付き合うよ、だから恋人になろう」
「だから俺には男と付き合う考えは―」
「レンブ、」
言葉を遮る問いかけ、ああ、まただ。またこいつのペースに乗せられる。解っているのに、防げない。このタイミングと口の巧さ、うらやめしい。
「性別に拘る前に、私を見てよ」
「っ」
「私という一個人を見ておくれ。私と言う男ではなく、私と言う同僚でも仲間でもない、唯、ギーマと言う人間を見て、知って欲しい。それらをする前から、全てを拒絶しないでよ」
あまりに真摯な声と顔で紡がれるそのご高説に、一瞬、レンブは納得しかけてしまった。確かにそうかもしれない、性別に拘って自分はギーマと言う個人を蔑ろにしていたんではないのか?ポケモン勝負に性別が関係無い様に親交を深める行為に、性別は重大な条件になり得るのだろうか?同性だから、と言う極めて端的な理由と言葉で拒絶していいのだろうか?それは己の良識や浅い考えから発生する一方的な考え方の一つにしか過ぎないんじゃないのか?俺の望む強さの延長線上にそんな心の狭い考えがあるなんて!なんて未熟なんだ俺は!!
流石レンブ、真面目で融通の利かない男である。だが、そんな真面目なレンブの思考はギーマにとっては格好の隙、と言う訳で。
「なので、解り合う為にもスキンシップは大切だと思うんだよ。私はっ」
むちゅう、
「んぎゃーーーーーーーー!!!!」
言い切り、切り上げた言葉尻の瞬間に隙有り、と言わんばかりの勢いでまた唇を奪われ俺は絶叫した。さっきと変わらず、ギーマの唇は苦くて不味かった、と混乱しながらも俺の味覚は場違いに訴えていた。





この、身の危険を感じるセクハラ行為の連続に、本気でギーマに引導を渡してやろうかと此処毎日、同じ様に悩んでいる。








他の話と違ってこのギーマ、マジ手段選ばない。別に外道、とか非道な手段を取って迄レンブが欲しいとか言う手段の選び方と言うより自分の持てる恋愛スキルを最大限生かしてレンブをオトそうとする伊達男≠スケコマシと言う名の大人気無い手段選ばないギーマ。話の中でアデクに一切触れていないのは仕様(笑)

レンブは自分の事でアデクに相談するって言う行為は一大決心と言ってもいいくらい大事になりそうなので、まだ自分で解決出来ると思ったら意地でも連絡しない相談しない。つまり、仕事一人で抱えて頑張りすぎて後々大変な目に遭うタイプな真面目な人レンブ。個人的な妄想ですがギーマとレンブが同僚を超えた関係になるって言うのはアデクがいない期間の内なんじゃないかと。アデクが放浪していた期間がゲームで明記されてなかったけれどある程度まとまった長い間リーグほっぽってぶらぶらしていたのは理解出来たし、しかも碌に連絡もしてなかった様な感じだし。その間は四人が結束力を高めるには十分な時間だったろうし、ギーマが一歩踏み込もうかと考え行動するにも十分すぎる時間だったんじゃないかなぁとか。そしてギーマはフットワークは軽いだろうけれど思い立ったらすぐ行動!っていうタイプ、ではなく一応計画を立てて練って時期見計らって行動!と言う行動タイプの人間っぽいのでアデクが帰ってくる迄にある程度進展させとくか!なんて計算して行動してたら怖い。何が一番怖いって此処の話が無駄に長いのが怖い