「だいたいっ!前々からっ!怪しいと思ってたんだっ!」
「ちょ、待て、なんだ一体!?落ち着けぇぇぇぇ!話せばわかる!」
「流石に銃はやばいから!この馬鹿!お前一応こいつ聖騎士だから!」
「シュラさん・・・止めるなよ?人間、やらなきゃならない時があるんです」
「悪魔に堕ちた身の癖におこがましいな!流石サタンn」
「黙っとけこの馬鹿ハゲ上司!」
「おかしいといえばおかしかったんですよ。悪魔堕ちした僕に監視がつくのは当たり前ですが、出奔した兄さんに討伐命令がでないなんてあり得ない話ですからね。てめえが黒幕かこんにゃろう兄さんにころっといかれやがって」
「ころっとってなんだ気持ち悪い!」
「ぎゃー!もうやだしろー!どうにかしろよ糞保護者!」




『しばらく来るな』
硝煙と汗と血の匂いが染み付いた小汚い紙切れをやたらと憔悴したアーサーの使い魔から受け取って、りんはひとつ溜息を付くと、ひろしを肩に抱き、シロに声をかけて胸に下げた2つの鍵のひとつをテーブルに置き、もうひとつをドアのノブに差し込んだ。いやはや、また迷惑をかけちまったなーとわずかに申し訳なく思うものの、滞在期間中は散々こき使われてたのである。実はそこそこ顔色を伺わなくてはいけない職業なのだとぼやきながら苛立ち紛れに水道水に聖水仕込まれたり、寝ている最中に尻尾をぶつ切りにされたりと地味に嫌がらせをされてきたが、それよりも食事の好き嫌いの多さとやたらとカタカナのつく料理を求められるのに辟易していたところだった。この調子だとしばらく頼れそうもないが、顔を見なくて清々するとまるで旦那が会社に行っている間に離婚届を置いて出ていくような妻のノリでドアを開けて、りんは固まった。

慣れ親しんだ部屋である。
日当たりの良い窓。
アーサーの家に比べると格段に狭いが、明るいオレンジと白を基調とした温かみのある1DK。
そして、りんが開けたドアの真ん前に立つ、銀の髪を持った全裸の男。
ちくしょう男かよ、ひろしが心底つまらなそうな声で、吐き捨てた。

「・・・若君?」
「よ、よう?」

気まずい、気まずすぎる、とりんは引き攣った笑みを浮かべて、片手を上げた。なんで全裸なの?というツッコミは、できなかった。うっかり軽い気持ちで聞いて趣味ですと言い切られたらどうしようか。加虐趣味もネガティブでもなく、唯一と言ってもいい程まともな知り合いはこいつしかいないのに。
りんの前に立つ露出魔、自室なので誰に対して露出しているのかわからないが、白鳥零次は微妙に顔を逸らしているりんに不思議そうに首を傾げ、そして己の今の姿を思い出して、真っ青になった。

「き、」
き?
「きゃーーーーーーーー!」

衣を裂く悲鳴とはこのことかと、りんは場違いにも関心した訳だが、後にこのことで十文字学園大学部の男子寮に女が連れ込まれたと警察沙汰になった挙句、テレビ報道されてメフィストが青筋立てながら糞ガキゃあと呪詛を吐くことになるのだが、もちろんそんなことは考えもつかないことなのである。


ちょっと待っててください!と真っ青から真っ赤に染まった白鳥に、お構いなく、とりんはついうっかり敬語で勝手知ったる洗面所に足を向けた。

『なあ、りん、あいつへんたいか?』
「・・・セーテキシスーは自由らしいぞ?」
「それ言うなら性的志向だ馬鹿」

そんな阿保な会話をなんとなしに続けている内に、着替えたのか清潔そうなストライプのシャツとスラックスに身を包んだ白鳥に恭しく柔らかそうなクッションに案内され、りんとその一行は慌ただしくもアーサーの家を出てからやっとのことで腰を落ち着けたのである。

「お、お見苦しいものをお見せしまして・・・」
「いや、別に、慣れてるし」

え、慣れてるの?ちょ、まさか金がないからって道端に立って一晩いくらとか、そんな、え、何処向け誰向けの設定ですか若君!?そんなの世の非悪魔的な意味で腐った人種たちが喜びそうな設定はあくまでも妄想の世界の萌えであって、退廃と不道徳を信条とする悪魔でもリアルに知り合いがそっち系のネタに走っちゃうとと反応がすごく困るんですが!

「たまに銭湯とか行くし」
「ですよね!」

りんは挙動不審な白鳥に気づいていなようだが、じわじわ視線が痛い。白鳥は心の中で汗をかいた。流石元聖騎士、悪魔に堕ちてもその鋭さに磨きがかかっている。

「ところで今日は何か御用で?」
「久しぶりに泊めてもらいたくてさ、今、大丈夫か?」
「ああ、大丈夫ですよ、ちょうど大学も夏休みに入りましたし」

朗らかに頷く白鳥に、りんはほっと、息を吐いた。どこかの聖騎士みたく嫌味のいの字も見えないその様子は、なんだかんだ言って生活が不安定な日常に一時の清涼剤である。だからこそ、なるべく追手に悟られたくない手の内のひとつなのだが、こうも短期間に居場所がばれると少しは落ち着いて英気を養いたかった。・・・外は30度を超す猛暑である。一体どうやって体を休めろと言うのだ、とりんは静かな作動音を立てているエアコンを眩しそうに見つめた。
何か飲みますか?あ、食べ物どっかで頼みます?
やたらとお伺いを立てて上げ膳据え膳で世話を焼いてくれるのも、こそばゆいが心地いい。

天国だ、とりんはつぶやいた。






「ちょっと今月のSQ買ってきますね」
「わりいな。頼むわー」
「全裸のお姉ちゃんが載ってる雑誌もなー」
「調子こいてんじゃねえぞゴミ人形。あ、先月までのSQはテレビの横に置いてあるんでお待ちいただく間それで時間潰してくださいね、若君!」
「おー気をつけてなー」
・・・
『なあ、りん、なんであいつはだかだったんだ?』
「考えるな、シロ。俺はまだこの居心地のいい空間を壊したくない」
「エロ本・・・」
「どっかの誰かみたいなこと言うなよなーエロジジイ」

「・・・」
『・・・』


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