番外編

最高の誕生日



※轟恋人ifです。時間軸としては原作後で高2くらい。
このお話の世界線では爆豪と夢主はただの大切な幼馴染で、お互いに恋愛感情を持ったことはないという設定です。苦手な方はご注意下さい。

















 寮住まいになってからは、クラスメートが誕生日を迎える度に皆でお祝いパーティーをするという習慣ができていた。理由を作って皆でワイワイしたいというのが本音だけど、寮生活で気軽に家に帰れないというのも事実なので、私たちがこうしてたまにバカ騒ぎしていても、相澤先生は目を瞑ってくれている。

 今日は1月11日―――轟くんの誕生日だった。
 轟くんがいない間に皆で寮内を飾りつけた共有スペースで、パーティー用に用意した夕食(主に出前)や砂糖くんと女子の有志が集まって作ったケーキを食べたり。

「うめえ」
「蕎麦もあるから食べてねー!」

 企画したゲームを皆でやったり。

「飯田ババ抜き弱すぎじゃねえか?」
「うむ・・・・・・どうやってもババが残ってしまう。鍛錬が必要なようだな」

 普段はクールで無表情な轟くんも、ところどころ笑みを浮かべて楽しそうだった。

「じゃあ、邪魔者はこの辺で退散しようぜ。せっかくのイベントなんだから後はお2人でどーぞー」

 散々騒いだ後、片付けもほとんど終わってお開きムードが漂い始めた頃になって、上鳴くんはニヤニヤとしながらそう言った。

「じゃあお休みー」
「あんまり夜更かししちゃダメだよー!」
「轟、俺はお前を信じてるからな!なァ!?」
「おい、峰田行くぞ」

 口々に勝手なことを言いながら部屋から出て行く。
 皆がいなくなったところで、一緒に並んで洗い物をしていた私と轟くんは顔を見合わせた。

「何か気を遣わせちゃったね・・・・・・?」
「そうみたいだな」

 『お2人で』、というのは、私と轟くんのこと。
 轟くんと私が付き合いはじめたのは割と最近のことだった。他の皆には当分内緒にしておこうということになったんだけど、鋭いクラスメートの何人かにすぐに見抜かれて、あっという間に知れ渡ってしまった。

「えーと・・・どうする?」

 明日も普通に学校だし、轟くんも疲れているかもしれないと思って聞いてみる。

「・・・・・・俺はもう少し一緒にいてえ」

 そんなことをストレートに言ってくる恋人に思わずドキリとしてしまう。付き合ってからの轟くんは意外にもこういうことを平気で言ったりするから困ったものだった。皆にバレてしまったのも、こういうやりとりだったりするのかも。

「う、うん・・・・・・じゃあ座る・・・・・・?」
「ああ」

 洗い物もちょうど終わったのでそう聞くと、轟くんは返事をしてさっさとソファへ向かってしまった。すぐに私もそれに続く。

「こっち座れよ」

 ソファを1人分空けて座ろうとする私に、轟くんは自分の隣をポンポンと手で示した。轟くんのすぐ隣に座ると思うと、一旦落ち着いたはずの心臓がまたバクバクと鼓動を速くする。友達だった頃は全然平気だったのに、今は近づくと妙に緊張をしてしまう。
 少しだけ轟くんの方に距離を詰めた私は、そんな動揺を悟られないようにと口を開く。

「改めてお誕生日おめでとう!」
「ああ。ありがとう」
「その・・・・・・プレゼント、ほんとにいいの?」

 残念ながらプレゼントを用意することができなかった。寮生は基本は外出禁止で、私の場合は必ずプロヒーローの同行がなれけば許可されないことになっているため、気軽に外出できない。
 通販で買おうかとも迷ったんだけど、やっぱり現物を見て選びたかった私は轟くんに正直にそう告げた。
 すると轟くんは「気持ちだけで嬉しい」と、プレゼントを辞退したのだ。
 勝己なんかは「いらねェ」とか言いつつ本心は真逆だったりするけど、轟くんの場合はどうなんだろう?
 確かめるようにそう聞いた私に、轟くんは安心させるような表情で口を開いた。

「こうやってクラスの奴らにも祝ってもらったし」

 まあ、皆といっても一人は結局ご飯食べてすぐいなくなっちゃったんだけどね・・・・・・!
 その時の状況を思い出して苦笑いしていると、轟くんが続きを口にする。

「・・・・・・今は久遠が隣にいてくれる」

 だから特別なものはいらない。そう言ってまたふわりと優しい笑みを見せた。
 さっきから轟くんは私の心臓を止めにかかってるんだろうか・・・・・・?そう思えるくらいの殺し文句だ。
 
「そ、そういえば、さっきは勝己がごめんね?態度悪かったよね」

 早口でそう言ったのは照れているのを誤魔化すため。まあでも実際に勝己の態度はよろしくなかった。「だりぃ」とか捨て台詞吐いて出て行ったし。まあ誰の誕生日パーティーでも基本そんな感じだから、轟くんに対してだけってわけじゃないんだけど。
 
「・・・・・・何で久遠が謝んだ?」

 轟くんはどこかムッとした表情でそう聞いてきた。 

 え?急に不機嫌・・・・・・!?

「ごめん!何か気に障ること言っちゃった!?」

 慌てている私に、轟くんはバツが悪そうに俯いた。

「・・・・・・悪い。ちょっとヤいた」
「え!?」
「爆豪と仲良いの知ってっけど・・・・・・たまにムッとくる」

 まさか轟くんがヤキモチを妬いているとは思わずに私はただただ目を丸くするばかり。

「俺のこと・・・・・・好きになってくれたんだよな?」

 なぜかそう尋ねる轟くんはどこか自信なさげな様子で、焦りが募る。その表情から自分が轟くんを不安にさせているのだと思い知った気分だった。

「そうだよ!私が好きなのは・・・轟くんであって、勝己はホントにただの幼馴染で・・・・・・!」

 しどろもどろになっている私を轟くんが真剣な表情で見つめてくる。
 
「プレゼントの代わりにお願いが一つある」
「え・・・・・・?」
「俺のことも名前で呼んでくれ」

 名前って・・・・・・?

「焦凍・・・くん・・・?」
「呼び捨てがいい」
「焦・・・凍・・・?」

 ヒーロー名がショートだから、たまにそう呼ぶことはある。けれど改めて口にするのは何だか恥ずかしかった。名前で呼ぶだけでこんなにドキドキするなんて、自分でも信じられない。
 おそるおそる轟くんの方を伺うと、口元に笑みを浮かべている。その頬はほんのり赤く染まっていて、嬉しいと思ってくれているみたいだ。

「・・・・・・美琴」
「・・・・・・!!」
「俺もそう呼んでいいか?」

 私は全力で顔を縦に振る。轟くんの「美琴」の破壊力は凄まじいものだった。みるみる顔に熱が集中する。

「顔真っ赤だぞ?」

 何だかからかうような言い方だった。絶対わかって言ってるよね、これ?

「轟くんの―――」
「焦凍」

 やり直し、とばかりに言い直される。

「しょ、焦凍のせいじゃん・・・・・・」

 その言葉は先ほどの勢いはなくなって、尻すぼみになってしまった。
 慣れないうちはきっとこういうやりとり多くなりそうだなぁなんて思っていると―――

「・・・・・・わりい、悪化させちまうかも」
「え・・・・・・?」

 どういうこと?と問う間もなく、肩を引き寄せられて、轟くんの整った顔が視界を埋めた。唇に柔らかいものが触れる。自分が何をされているのかわかった時にはそれはもう既に離れていた。

「・・・・・・」

 無言でますます顔を赤くする私に轟くんは満足げな表情だ。

「最高の誕生日だ」

 そう言って、私の頬に優しく手を添えるともう一度優しくキスをした。


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