番外編

君の笑顔には勝てる気がしない



「あ!・・・ねえ。ちょっとだけコンビニ寄っていい?」

 学校からの帰り道。いつものように勝己と2人並んで駅からの道を歩いてたんだけど、不意にノートを買い足さなきゃいけないことを思い出した。

「あ?」
「買いたいものあるんだけど・・・先帰ってる?」
「・・・・・・早くしろや」

 どうやら待っていてくれるらしい。私は急いで店内に入った。中にはお客さんはほとんどいなくて、がらんとしている。アルバイトの若い店員さんがやる気なさげに突っ立っているのが目に入った。私はすぐに文具コーナーへと向かい、お目当てのものを探す。
 うわ、最悪!いつものやつ、在庫ない!駅前の文具店で買っとけば良かった・・・!
 念のため、店員さんに奥に在庫のストックがないか聞こうと、レジへと向かう。その際にふと外に目をやると、勝己が壁にもたれかかってスマホを弄っているのが目に入った。急がなきゃ・・・!

「あのー」

 店員さんに在庫があるかどうか聞いてみると、「パソコンで在庫確認してきますねー」と、すぐにバックヤードへ見に行ってくれた。それをぼんやりと待っていると―――

「おい、店員はどこだ!?」

 入り口から入って来た男に突然声をかけられた。その男は帽子を目深に被り、更にサングラスとマスクを着けているので、全く顔が見えない。かなり怪しげな格好だった。

「今、在庫見てもらってるんですけど・・・」

 男はチッと舌打ちすると、何故かそのまま勝手に奥へと入って行った。別のアルバイトさんかな・・・?と思ってると、奥から悲鳴のような声と、「静かにしろ!!」という怒鳴り声が聞こえてきた。
 ん?と思ってると、中から怪しげな男に引き摺られるようにして先程の店員さんが出て来た。よくよく見ると、店員さんはナイフを首筋に突き付けられている。

「早くしろ!!」

 そう言って、レジを開けさせようとしている。これはまさか・・・?

「ご、強盗・・・?」
「おい、お前は大人しくしてろよ!?妙な動きしやがったら個性使ってブッ殺すからな!!?」

 何らかの個性で店員を脅して、お金を巻き上げようという魂胆らしい。急な展開に頭がついていかず、動揺で胸が波立つのを感じた。こ、これ、ドッキリとかじゃないよね?ヤバいやつだよね?
 勝己はどうしているだろうかとこっそり外の様子を伺う。

「おい、お前何キョロキョロしてんだ!?」

 強盗はもたつく店員に苛立っていたようで、矛先をこちらに向けてくる。私はどうしたものかと考えた末、勝己を信じることにした。

「あの、強盗とか・・・その・・・やめといた方がいいと思いますよ?」
「あ!?」
「お兄さん、弱そうだし」
「んだとコラ!!」

 男はもう我慢ならないとばかりに、レジ台を飛び越えてこちらに突進してくる。

「もういっぺん言ってみろ!!!」

 激昂した男に私は手首を思いっ切り掴まれた。鋭い痛みが走ったけど、男と店員さんを引き離すことには成功した。男が手に持っていたナイフを今度は私へと向ける。私はその動作を不思議と冷静に眺めることができた。

「何度も言いますけど、やめません?」
「あ!?」
「だって、ほら」

 そう言って入り口とは反対側を指で示す。私の指の動きを追うように、強盗の目線がそちらに向かった瞬間ーーー反対側、すなわち入り口の方から爆発音がとどろいた。
 轟音に思わず反射的に目を瞑ってしまう。次に目を開けた時には、強盗は床に倒れ伏していて、勝己に足蹴にされていた。爆発の勢いのまま思いっ切り蹴られたせいか、意識はあるものの動けないようだ。『圧勝』という言葉が頭に浮かんでくる。

「何だこいつは?」
「えーと・・・・・・強盗?」
「てめェは何でいつもトラブルを引き寄せんだ!?」
「え?これ、私のせいなの!?」

 人をトラブルメーカーみたいに言わないで欲しい。まあ、確かによくトラブルに巻き込まれはするんだけど、断じて私のせいではない。それにしても握られていた手首がズキズキと痛む。後で個性で治そうとさすっているとーーー

「手、何かされたんか?」
「あ、うん。ちょっと強く握られて・・・」

 私がそう言うなり、勝己は背中を踏みつけていた足を振り上げ、踵で思いっ切り強盗犯の右手首を蹴り付けた。

「ギャーーーーー!!」

 男の悲鳴が店内にこだまする。

「ちょ、ちょっと勝己!?」

 私が止めに入ると、勝己もそれ以上は何もしなかった。とりあえず強盗犯は勝己に任せて、私は腰を抜かして地べたに座り込んでいる店員さんに声をかける。

「大丈夫ですか?怪我はないですか?」
「だ、だいじょぶ・・・・・・き、君たちは・・・?」

 店員さんは私たち2人を見比べている。

「あ、この人は将来のプロヒーローです!」

 自慢げにそう言うと、勝己から「てめェが威張んな」とツッコミが入った。
 その後、すぐに店員さんに警察を呼んでもらって、強盗犯は現行犯逮捕となった。私たちも軽くその場で事情聴取を受けたんだけど、すぐに解放された。結局ノートは買えなかったけど仕方ない。
 すっかり疲れ果ててしまったその帰り道。

「でも、あの強盗犯の個性なんだったのかな?」
「無個性かショボイ雑魚個性だろ」
「え!?何でわかるの!?」
「強え個性あんのにナイフなんか使うわけねえだろ!」
「た、確かに・・・・・・!」
「それにてめェは弱え癖に無駄に煽ってんじゃねえ!」

 若干キレ気味にそう言われてしまう。今冷静になってみると、なかなか危険なことしたなって思う。あの時は店員さんから強盗を引き離さなきゃって必死だったからなぁ。それにーーー

「勝己がいるから大丈夫って思ったの。ちゃんと救けてくれてありがと!」

 そう言って微笑むと、なぜか勝己は何とも表現し難い複雑な表情になって、「早くしろ」と足早に歩き始めた。もっと怒られるかと思っていたので、少しだけホッとする。

「待ってよー!」

 私は勝己の態度に少しだけ釈然としない気持ちを抱きながらも、慌てて後を追いかけたのだった。


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