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私が琉夏くんの口元に耳を近付けたら、二人の顔が周りから見られないようにというように、琉夏くんは手にしたノートで視線を遮断する。
解説している氷室先生の背中が、茶色のノートに遮られた瞬間、ほっぺたに柔らかな感触が舞い降りた。
「ごちそうさまでした」
何が起こったか分からないまま、氷室先生の背中が再び視界に舞い戻る。
ほっぺたに手をあて、ゆっくりと横を向くと、いたずらっ子のような笑みを浮かべている彼がいる。
「……る、琉夏く…!」
驚きのあまり、思わず大きな声を出しそうになったくちびるは、伸びてきた綺麗な人差し指で閉じられる。
「しーっ!ヒムロッチに怒られちゃうよ」
「だ、だって」
「だっても何もない。美奈子がお礼なんでもいいって言ったんだろ?」
「そりゃ言ったけど…ま、まさか…」
熟れたトマトのように真っ赤になっているに違いないほっぺたに手を添えると、手のひらに熱が広がった。
「ん、何?ほっぺたじゃなくて、くちびるにして欲しかった?」
「!!」
くちびるにだなんて、想像しただけで心臓飛び出してきちゃいそうになって、呼吸困難になっちゃいます!
っていうか、これってもしかして……琉夏くん、私の気持ちに気付いて……る?
でも琉夏くんの顔を直視することが出来なくて、私にはそれを確かめる術はない。
だから、全てが私の想像でしかないけど。
私の気持ちに気付いて欲しいと思っていた割には、実際にその状況になると、今までの行動全て琉夏くんの記憶から消えて欲しいなんて、思ったりして……そう、とにかく恥ずかしい。
みんな、こういう時はどういう風に切り抜けてるの?
考えれば考えるほど、何も浮かばない。
頭の中が真っ白になるって、こういうことなんだ。
「じゃあくちびるにチューするのはまた今度。あっ、ちゃんとケアしてぷるぷるにしといてね?」