▼ ![]() 「さぶっ」 首のあたりを風がひゅっとすり抜ける。 すっかり冷たくなったその風は、隣を歩く弟を縮こまらせるのに十分の温度だった。 「ククッ、情けねぇな」 ルカはジャケットの襟に顔を隠しながら、恨めしそうに俺を見る。 だが、その表情とは裏腹に、美奈子の家へと道を進むルカの足取りはとても軽い。 「……なあコウ。そのダウン、俺のジャケットと交代だ」 そう言ってルカは薄手の黒いジャケットのチャックを下ろしていく。 「ハァ?」 「コウ、寒さに強いんだよな?だったら寒くて震え上がってるカワイイ弟にそれ譲ってよ。それの方が絶対に温かいじゃん」 なんだその理屈。 相変わらず意味が分かんねぇ。 「なんでだよ。誰が譲るかバカルカ。つーか、オマエも似たようなの持ってただろうがよ。なんでそれ着ねぇんだよ」 「ちょ、バカって言った方がバカなんだからなー!コウのバカー!バカコウ!そんなバカなお兄ちゃんとペアルック風になるなんて御免こうむるからに決まってんだろ!早くそれ寄こせ」 「チッ、ウルセーな。つか、オマエ、テンション高ぇし、どこの武士なんだって話なんだよ。って、引っ張んな、鬱陶しい!」 俺のダウンを脱がしにかかるルカ。 それに応戦する俺。 いつもなら無視するルカの行動に応じるなんて、ガキ以来の出来事だ。 俺自身も相当この日を楽しみにしていたらしい。 ルカ付きとはいえ美奈子と一緒にクリスマスを過ごせるのは…でけぇ。 そして来年のクリスマスは……。 |