short stories | ナノ


Everlasting


「あともう少しで年が明けるね」

「そうだね」


二人並んで冷たい壁にもたれ掛かる。
見上げた先の夜空に浮かぶのは、ぽっかり浮かぶまん丸い月。


その色は、救急車のサイレンが聞こえた中で見たあの日の月と同じ色のはずなのに、その色から伝わる温かさはまるで違う。

冷たく凍えそうな色を俺に注いでいた月も、今日は二人を祝福するかのように温かく照らしてくれる。


これって、ただの「気の持ちよう」ってやつ?
でもさ、オマエと一緒だからっていうのもあるよね、絶対。
オマエと一緒にいるだけで、俺が感じる世界はガラッと変わるんだ。


遠くで鳴り響く鐘の音。
108回鳴るその音は人間の煩悩の数を表し、鐘をつくことでその煩悩が浄化されていくという。

でもね、俺の煩悩はそれじゃ浄化されない。

だってさ。
もっと美奈子と一緒にいたい。
もっと美奈子の笑った顔が見たい。
もっと美奈子と笑い合いたい。
もっと美奈子にくっついていたい。
もっと美奈子の柔らかさに溺れたい。

もっと、もっと、もっと…


そうやって浄化されるそばから、増えていく俺の煩悩。

…ここまでくると、煩悩が俺の原動力になってる気がする。

そう考えると、煩悩も悪いことだらけってわけじゃないよね。


…ボーン…ボーン………

厳かな鐘の音が鳴り止み、辺りに静寂が戻ってくる。


「ルカちゃん、あけましておめでとう!今年もよろしくお願いします」

丁寧にペコリと頭を下げる美奈子を抱き締めたくなる衝動を抑え、頭にポンと手をのせる。

「美奈子、あけましておめでとう。今年も、だけじゃなくってこれからずっとよろしくね」

「うんっ!」

「うん、いい返事だ。良くできました。じゃ早速行こうか?」

美奈子の手を引き、夜間の窓口へと急ぐ。



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