short stories | ナノ




疲れた。
こんなのオレらしくない。
もうやめてしまおう。

何度となく呟いてきた言葉。


こんな報われない思いばっか抱いて、何してんだオレ。
どうして『ただのオトモダチ』という関係から抜け出せない?

美奈子ちゃんに出会ったあの日から、オレはずっと透明な檻に囚われたまま。

望めば簡単に抜け出せるそんな脆い檻なのに、そこから抜け出せないのはオレが意気地無しだから?
それとも…?


美奈子ちゃんの口がオレ以外の男の名前を紡いで、オレ以外の男に微笑みを向ける、そんな些細なことにすらもう耐えられない。


胸ん中ぐるぐる渦巻くどす黒い感情に飲み込まれそうになる。

いっそのこと、その渦に飲み込まれた方が、泳ぎきることなく溺れた方が…楽なのか。


『なぁ、知ってる?愛と憎しみは表裏一体で、どんなに愛しててもその裏には同じくらいの憎しみがあるんだって』
昔、誰かがそう言っていた。

その時は、愛してると思うその心と同じ心で憎しみが生まれるなんて、そんなこと有り得ねーって、一笑に付した。

大好きな人を思うだけで幸せでいられるのに、なんで憎しみなんか。


今はその気持ちが痛いほどよく分かる。


ねえ、美奈子ちゃん。
その花のような微笑みを、涙にまみれたぐちゃぐちゃな泣き顔に変えて、オレ以外の名前を紡ぐことなんて出来なくさせたっていいんだよ?力づくでね。


「ニ、ニーナ?どうしたの?そんなに力入れちゃ手が痛いよ…?」


繋いだ先にある、ほんのりと赤が広がる小さな手。
その赤に口付けて、きつく吸い上げて消えない跡を残したい。

「あっ、ああ…美奈子ちゃん、ごめんね。考え事してたらつい、ね」

もう、しょうがないなーと尖らせるくちびる、ぷっくりと膨らむほっぺた、くりくりした目、綺麗に彩られた爪先…そして、柔らかで非力な手。


望めば簡単に逆転出来る、そんな脆い檻なのに、逆転せずにそのままで居続けたいと思うのは、美奈子ちゃんだから?


『なぁ、知ってる?愛と憎しみは表裏一体で、どんなに愛しててもその裏には同じくらいの憎しみがあるんだって』


もしそれが真理だとしたら、美奈子ちゃんを愛しながら憎みながら檻に囚われ続けたまま生きてやるよ。
たとえ美奈子ちゃんがオレのことを『ただのオトモダチ』としてしか扱ってくれないとしても。

だって俺は今までも、そしてこれからも。
ずっとアンタの、アンタだけの虜。



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