▼ 光
闇が統べる夜。
そこに差し込む一筋の強く柔らかな光。
その光に触れたくて手を伸ばす。
光に差し伸べた手は宙を彷徨い、行き場を失う。
死ぬのなんかこわくない。
いつ死んでもいいと思ってた。
でも、実際その状況になってみるとどうだ。
俺を見守ってくれるヤツ、惜しみなく愛情を注いでくれる人たち、そしていつも俺の傍にいてくれて、花のようなほほ笑みで俺を包んでくれる子。
思い浮かぶのはそれだけ。
なあ、俺がいなくなったらどうする?
昔、ふざけて聞いた時、美奈子の涙が止まんなくなって俺もどうしていいか分かんなくなって、一緒に途方にくれたっけ。
もう二度とそんな思いはさせないとあの時誓ったのに。
ああ、今ここで俺が死んじゃったらまた同じ思いをさせてしまう。
それじゃダメだ。
俺が変わらないとダメなんだ。
美奈子にあんな顔させるために俺は美奈子のことを好きになったんじゃない。
今ならまだ間に合う。
神様、どうかお願い。
もう一度チャンスをください。
いつしか宙を彷徨っていた手は、指を絡め合わせ祈りをささげる形になっていた。
コウ、父さん、母さん…美奈子、ごめんな。
ホントは分かってるんだ。
みんなが愛情を注いで、心配して、ここに俺を繋ぎ止めようとしてくれてるってこと。
分からないフリをするのはもうやめだ。
俺は逃げずにちゃんと生きるよ。
闇が統べる夜。
そこに差し込む一筋の強く柔らかな光。
その光が俺の身体に降り注ぐ頃、遠くでサイレンの音が聞こえた。
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