short stories | ナノ


hands-琥一×主-


あーもう!全然つまんない。
ねぇ、コウはなんで彼女をほったらかしにして、バイク雑誌なんか見てるわけ?


「たまにはよ……家来るか?」

なんて頬っぺた赤くしながら誘ってきたくせに、この人は彼女を楽しませようなんてちっとも考えないのだろうか。

こんな風に過ごすのなら、二つ返事で「うんっ!」なんて言うんじゃなかった。
焦らしに焦らして「そこまで言うなら、行ってあげてもいいよ?」って返事すればよかった。

……どっちにしろ断らないことが、わたしの気持ちを物語ってるけど。

わざと視界に入るとこで膝を抱え、恨めしそうにバイク雑誌に夢中な彼をじとーっと睨んでも、全然気づかない。
それどころか満足そうに少しだけ右側の口角だけ上げちゃってるし。

――こんなんじゃ、わたしがここにいる意味ないんじゃない?

さっきから同じ言葉が頭の中でぐるぐるぐるぐる回ってる。

だけど口に出せないのは、悔しいけどやっぱりコウと一緒にいたいからだ。

「ねぇ、コウ」

「あ?」

雑誌から目を離さずたった一言だけ発したコウに、わたしの苛立ちは最高潮に達した。

あったま来た!
こうなったら……こうしてやる!

何故か一緒の空間にいるときはいつも離れて座るコウににじり寄っていき、すきま風のせいですっかり凍えてしまった手で雑誌を捲ろうとしたコウの手に触れる。

「うわっ!冷てぇ!オマエ、何すん……っつか、何やってんだ」

「何って、手を触った」

「いや、そういうことじゃなくてだな……なんつーか、近くねぇ?」

わたしが寄っていっても、意地になってるかのようにいつもくっついてくれないコウに少しでも近寄りたくて、身体の半分をコウに預けるように寄り添った。

多分、コウが言いたかったのはそれ。
はぐらかすようにとぼけた返事をしたのは、離れろ、って言われたら、絶対に泣いてしまうだろうから。
というか、もうすでに目は潤み始めていた。

「ハァ……なんでオマエはいつもそんな格好ばっかすんのかね?」


そんな格好って……。

「だって、コウが似合うって言って喜んでくれたからじゃない」

確かに冬に着るとしたら、風邪ひくんじゃないかって心配されるギリギリのラインをいってる格好だ。
だけど、コウが喜んだ顔を見れるのが嬉しいから。
ただその一心で着てるんだけど……そんなの基本中の基本じゃない。

「ちげーよ。ハァ……オマエな、言っとくけどな、俺も男なんだからちっとは気にしろ」

なんて言いながら赤くなった顔を思いっきり背けた。

「へっ?ねぇ、今のどういう意味?ねぇ、コウ。ねぇったら」
「ウルセー、ああもうこんなに冷たくなっちまいやがって。だからもっと厚着しろって」

コウの手の甲に乗せたわたしの手を一本ずつ絡めるように―いわゆる恋人つなぎってヤツだ―繋いでくれた。

外ではもちろん、二人っきりのときでも恥ずかしがって繋いでくれなかった手をコウから繋いでくれた。
それだけで、わたしの心は満たされていく。

ああもう、この人はわたしをどれだけ夢中にさせれば気が済むのだろう。

だけどもっともっと夢中にさせてほしい。
ドキドキで心臓が破裂しそうになったり、頭がパンクしそうになったり、思うようにいかなくてイライラしたり悲しくなったり、くだらないことで笑い合ったり。

すべての感情をあなたと一緒に感じていきたい。

そう願い、顔を背けたままの彼の手をぎゅっと握り返した。


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