▼ hands-琉夏×主-
「んっ」
差し出した手に乗る一回り小さな手。
「手を乗せるんだってこと、やっと覚えたみたいだね」
そう言って繋いだ手をぎゅっと握りしめる。
美奈子は言ってる意味が分かんないみたいで、きょとんとした顔して首を少しだけ傾げた。
空いてる手で顔にかかった髪の毛を梳き、そのまま頭に乗せる。
「だってさ……」
初めて美奈子に手を差し出した日。
「んっ」
柄にもなく緊張しちゃって、平静を装ってたけど心臓はドキドキして息するのも苦しいくらい熱くなってんのに、手は氷水に入れたの?ってぐらい冷たくなって震えてた。
だけど美奈子は差し出した手の意図なんて全然分かってなかったみたいで。
時間にしたら数秒だと思うけど、俺からしたら何十分も手を差し出したままの状態が続いたんじゃない?ってぐらい間を置いた美奈子は鞄に手を入れ、がさごそした後、俺の手のひらに握りしめた手を乗せた。
「えっと……良かったぁ。はい」
そのまま繋がれるはずだった手はぱっと開かれ、ピンク色の小さな袋に包まれた飴ちゃんを手のひらに落とし、もとあった位置に戻っていった。
「琉夏くんの好きな味か分からないけど……良かったら食べて?」
ニコニコしながら飴ちゃんを差し出した美奈子を見て、思わず盛大なため息をもらしてしまって、飴ちゃんの味が気に入らなかったんだと勘違いした美奈子が謝ったあの日。
「普通さ、飴ちゃんと間違えないよね」
あの日はあり得ないほど緊張して手を差し出したのに、期待した結果にならなくてため息ついちゃったけど、今となっては思い出す度に思わず頬が緩んじゃうぐらい温かい思い出になってる。
「この調子じゃ美奈子と手を繋げるまでに何年かかるんだろって真剣に悩んだよ」
ってからかうように、ニッと笑いながら美奈子と目の高さを合わせると、真っ赤になった顔を見られまいとするように、バッと背けた。
「だ、だってあれは!……いきなりだったし、そういうのよく分かんなかったし、琉夏くんてっきりお腹空いちゃったんだと……」
しどろもどろになって説明する美奈子が可愛くて、繋いだ手に力を入れ抱き寄せた。
「でもさ、何年、何十年かかったとしても、手を繋ぎたいって思えるのは、美奈子しかいないから」
――だから、これからもずっと俺の側にいてね。
俺の腕の中にすっぽりとおさまった美奈子は、あの時みたいに少しだけ間を置いて、こくんと頷いた。
絞り出すように呟いたこの言葉の意味に、果たして美奈子はちゃんと気づいて頷いたんだろうか。
降りだした雪が、口に出したこの気持ちを溶かして消してしまわないように、より一層美奈子を強く抱きしめた。
-1/1-
prev next