▼ orange
陽が落ち、暗闇に覆い尽くされていく部屋でひとり、ベッドに寝転がる。
その手に握られているのは、数時間前から開けたり閉めたりを繰り返している黒い携帯。
それを開く度に仄白い光が漏れ、まるで携帯ごと取って食ってしまいそうな険しい表情が幾度となく浮かび上がる。
……美奈子に、電話してみっか。
いやでも、昨日も会ったばっかだしな。
でも、美奈子に会いてぇ。
でも、しつけぇヤツだと思われたくない。
でも、美奈子が楽しそうに笑ってる顔が見てぇ。
でも、この時間なら勉強してる時間かもしんねぇし。
でも、声だけでも聞きたい。
でも。
でも。
でも。
今日、何度目の「でも」を繰り返した頃だろう。
だーもう!
何やってんだ、俺は。
たかが電話一本じゃねぇか。
何を躊躇してんだ。
男のくせに、こんなことくれぇで何時間もウジウジ悩んでんじゃねぇ!
半ば自棄になりながら、美奈子の番号を表示させ、通話ボタンを押そうとした瞬間、甲高い電子音が鳴り響くと共にオレンジの光が点滅しだした。
「うわっ!」
『小波 美奈子』
発信履歴のほとんどを占めている名前が画面に浮かび上がる。
手の中でブルブル震えた携帯を少し見つめ、一つ深呼吸をして着信ボタンをピッと押す。
「も、もしもし」
「もしもーし、コウちゃん?いきなり電話してごめんね。今大丈夫?」