short stories | ナノ




「あっ…びっくりした…。」

髪を撫でていた私の手をコウくんの手が軽く振り払った。
でも起きたというわけではなく、無意識のうちに振り払ったようだ。

そのまま額に置かれたコウくんの手を取る。
私のとは違って骨ばっていて、大きくて。

バイトや家事のせいか、少しだけ荒れているコウくんの手の甲を包み込む。

そして、そっと口付けた。

これもまた自分ではコントロールできないところに突き動かされた結果。
コウくんのことを好きになりすぎて、自分が自分ではなくなったみたいだ。


「美奈子…オマエ…何してんだ。」

「コ、コウくん…い、いつから起きてたの?」

「いつからって…オマエが俺の手を握ったところくらいからだ。」

なんでこのタイミングで起きちゃうの?
恥ずかしくてコウくんの顔をまともに見ることが出来ない。

「だから何してんだ、って。俺はちゃんと答えた。だからオマエもちゃんと答えろ。」

何してた、かだなんて知ってるくせに。
それでも聞いてくるなんて…コウくんのいじわる。

「コウくんの…手にキ、キスをしてました。」
「へぇ、そりゃまたなんでだ。」

なんでだ…って理由まで聞いちゃう?
好きだから、だなんてそんな心の準備も出来てないのに言える訳ない。
ああ、もうどうしたらいいの…。

-3/5-
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