「オラ、落っこちんぞ。しっかりしがみついとけ。」
いきなり抱きあげたからか、美奈子は何が起こったか分からないらしくきょとんとした顔で俺を見つめてきた。
落っこちねぇように、美奈子の手を俺の肩に持っていき掴ませる。
いわゆる、お姫様だっこってヤツだ。
こんな俺らをルカに見られたら、なんて冷やかされるか…。
それに、美奈子は一人で行けるから大丈夫、なんてこの期に及んでまだ言ってやがる。
血の気が引いた顔で大丈夫だなんて言われても全然説得力ねぇんだよ。
「うるせぇ。黙って俺の言うとおりにしてろ。いいか、動くぞ。」
歩き出したことによって身体が不安定になったせいか、美奈子は俺の首に腕を回ししがみついてきた。
顔が…近ぇ。
目を閉じたまま、口を半開きにし辛そうに呼吸をするその姿が妙に色っぽい。
それが俺にとっちゃあ刺激以外の何物でもないわけで。
こんな状態の美奈子に何をするってわけでもねぇが…俺も男だ。
しかも好きな女がそんな仕草をしてんだ、そう思っちまうのは仕方ねぇ。
「ふふっ。コウくんの目から見える景色ってこういう風になってるんだね。天井が近いよ。」
美奈子はいつの間にか目を開け、俺の方を見ていた。
何考えてんだ俺は…情けねぇ。
とにかく、今はコイツを無事に保健室に送り届けることに集中しねぇと。
「こんな景色なら、いつでも見せてやる。オラ、いいから目閉じて少しは休んでろ。」