はじめのうちは、
「なんだコレは?一部屋じゃなく家なのか?」
「これがメインの料理になるのか?!俺は僧侶か!」
「おい、なんなんだ。この風呂、底がどんどん沈むじゃないか!助けろ!」
などと悪態をついていたセージも、老夫婦の手厚い歓迎や人柄にだんだんと心を改め素直になっていった。
ここまでお世話になった老夫婦に恩返しがしたい。
そう思ったセージは、
「おじいさま、おばあさま、今から俺はあなた方へのこの恩を返したいため、この部屋に少しだけこもります。ただし…一つだけお願いがございます。決して中をのぞかないでください。」
「セージや…そんな恩返しはいらないんじゃよ…ずっとセージに居てもらえればそれだけでいいんじゃ。」
「そうはいきません。お願いですから、こんなにもお世話になったお返しをさせてください。では。」
すーっと襖を閉めて奥の部屋へと消えていったセージ。
「ばあさんや、恩返しというて何をするのじゃろうな、セージは。」
「そうですねぇ、おじいさん。セージは…」
その時聞こえてきた、不思議な音色。
しんしんと雪が降り積もるように、冷たい闇夜に重なるようにしっとりとそしてじんわりと心に響く音色。
「こ、これがセージが言っていた恩返しなんじゃろうか。」
「おじいさん…セージは一体?!」
居ても立ってもいられなくなった老夫婦は、セージとの約束を破り奥の部屋の襖を開けてしまった。
そこには鶴の姿で優雅にピアノを弾くセージの姿が…
その白にすこし紫がかった羽。
間違いなく先日おじいさんが罠から救ってやった鶴であった。
老夫婦が覗いていることに気づいたセージは、先ほどまでとはうって変わった音色をたたき出した。
それは静寂に沈んだ闇夜を切り裂くような鋭い音であった。
「おじいさん、おばあさん、見てしまいましたね…約束したのに。俺はもうここにはいられません。さようなら。」
そう言い残してセージは闇夜へと消えていった。
その後セージは、
「俺はピアノを弾けば弾くほど嫌いになる。」
というようになったそうじゃ…。
おしまい。