short stories | ナノ




「ああ、そうだ。美奈子に早くメール返さないと。」

こめかみからツーっと汗が流れるのも厭わず、ベッドの上に座り直してメール作成画面を開いて文字を打ちはじめた。

「ええっと…『今家にいるよ。美奈子も空見てたんだ。俺も抜けるような青』」

そこまで打って、指が止まった。
急に文字じゃなくて美奈子の顔を見てオレの声で同じ気持ちを伝えたくなったんだ。

流れ落ちた汗で携帯の画面に波紋が広がった。

「汗を拭うのも忘れるくらい、美奈子のことばっか考えてたからか。」

呟くと同時にフッと自嘲気味な笑みがこぼれた。
いつからこんなに美奈子のことばかり考えるようになったんだろ。
でもそれが少しも嫌じゃない。むしろ逆だ。心が躍る。

「美奈子、今うちにいるって言ってたよな…」
そう思うのが早かったか、それともダイナーを出るのが早かったか。
気付いたら、電話もせず美奈子の家に向かっていた。

途中でコウのバイクが置いてあったことを思い出したけど、戻ってる時間がもったいない。
それくらい早く美奈子に会いたかった。

どんな顔するんだろ。どんな言葉で迎えてくれるんだろ。
「なんで連絡入れてから来てくれないの?もうっ。」
なんて言われるかな。

なんでもいいや、どんなんでもいいから早く美奈子に会いたい。
そんなこと思いながら走ってると、いつも通ってるなんでもない街並みが花が咲いたように急に色づいていく。


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