「せ、んぱい…?」
その声にハッと我に返る。戸惑ったように僕を見つめる君。
「あっ、ごめんね?髪の毛が口に入りそうだったから、つい、ね。」
「そ、そうだったんですか。少しびっくりしちゃいました。」
苦し紛れの言い訳をしても、全く僕を疑おうとしない君。
僕のことを全面的に信じてくれているようで嬉しいけれど、男性としてみられていないんじゃないかという気もしてくる。
いや、まだだ、まだその時じゃない。まだ時間はたっぷりある。
「さて、そろそろ帰ろうか。家まで送っていくよ。」
「ホントですか?嬉しい!ありがとうございます。」
その投げかけられたほほ笑みに囚われてしまっているのはきっと僕。
いつか必ずその立場を逆転してみせる。
君が僕を欲しがるようになるまで、じっくりじっくり時間をかけて君を僕だけのものにしていくんだ。
僕以外、いらないと言わせてみせる。
そうして僕はまた笑みを浮かべ、穏やかな自分を演じていく。
君をがんじがらめにするために。
黄昏時のせいじゃない、それは僕の中に確実に存在している欲望。