short stories | ナノ





海沿いの道に出たとき、辺りは夕暮れ時というにふさわしい色をしていた。

「もうすっかり黄昏時になっちゃったね。」

「そうですね、あちら側から歩いてくる人の顔が見えにくい時間帯ですよね。私、『誰そ彼』という言葉が『黄昏』という言葉のもとになってるって先生から聞いて、日本語って面白いなって思ったんです。」

「黄昏時って、人間の判断力が一番鈍る時間帯らしいよ。君、聞いたことある?」

「そうなんですか?それは聞いたことないです。うーん、どうしてだろう?」

体内周期や外界の明暗の差と相まって、ちょうど黄昏時に判断力の低下がピークに達するらしい。
僕は、この時間は人間が一番油断する時間帯だと思っている。
だから…だから僕は君をここに誘ったんだ。

「ねえ、美奈子さん、せっかくだからちょっとだけ海の方におりてみない?」

その問いかけに頷いた君を連れて、僕は君を砂浜に導いた。

「海に夕日が反射して綺麗ですね。キラキラしてる。」

「ほら、美奈子さん、水平線の方を見ててごらん。あっという間に夕日が沈んでいくから。」

素直に夕日に見入っている君を見つめる。
綺麗だ。純粋にそう思った。
どうしてこんなに綺麗な生き物がいるのだろう。
僕の手が君の頬に伸びていく。
驚いた目をして僕を見つめる君。それを無視して君の右頬に触れる。
触れた途端、熱が僕の手のひらに伝わる。心地よい温かさ。ずっとずっと触れていたい。

その瞬間が一秒のようにも一時間のようにも思えた。


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