short stories | ナノ




そして、5月19日。
とうとうこの日がやってきた。

大丈夫。
普段思っていることを口にするだけだ。難しいことなんて何もない。

それに、あれは聞いてるこっちも恥ずかしかったけど、それ以上にすごく嬉しかったんだ。

琥一くんがあの時のわたしと同じ気持ちになれるのなら、琥一くんの嬉しそうな顔が見られるのなら、これ以上に嬉しいことなんてない。

だから、大丈夫。

「よっしゃ!」

West Beachを目の前にして、誕生日にはおよそ似つかわしくない気合の掛け声を入れ、ドアを開けた。



「で、あんな大口叩いといてそれだけか。正直全然足りねぇな」
「あの時と同じ数だけ言ったのに……?」
「ヘェ、オマエの時はその日にいきなり『わたしの好きなところが聞きたい』って言われて余裕でそんだけ答えたのにな?今日は事前にリクエストしてたし、あん時より増えるって思っていても不思議じゃねぇよな?」
「うう……意地悪」
「まあ、それは否定しねぇけど、俺は絶対に引かねぇからよ。なんせすげぇ楽しみにしてた美奈子からのプレゼントなんだしな」

桜井家の血というものを実感せざるを得ない笑みを浮かべる琥一くんを見て、わたしに残された選択肢はひとつしかないことを悟った。

「幸い時間はたっぷりあるし、急かすことはないわな」

初夏だというのに、真夏の片鱗を見せ始めた日差しが反射する海辺に視線を移した琥一くんは心底楽しそうにそう言った。


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