short stories | ナノ




「こりゃまた随分と直球で来たな」
「誰のせいだと思って……」
「誰のせいだっつーか、なぁ?」

今日も案の定リサーチが失敗に終わってしまったわたしは、前から行ってみたかった喫茶店に入り、琥一くんにズバリ切り出した。

いつものように含み笑いをしながらコーヒーを飲む琥一くんを軽く睨む。

「なぁ?じゃないわよ。なんでそんなに頑ななのよ」
「まあ、そういうポリシーだから、しょうがないわな」
「そ、そんな取り付く島もないこと言わないでよ!ほら、誕生日なんだしちょっとくらいポリシーってやつを曲げてみても……」
「曲げてみねぇな。それより、ここのコーヒーすげぇ美味ぇな。ここまで来た甲斐があったってもんだよな」

どんな割合でブレンドしてるんかな、なんて、コーヒーにすっかり意識飛ばしちゃってるし。

確かにここのコーヒーは、コーヒーが苦手なわたしでもおかわりしたいと思うほど美味しいけれど、今はそれは横に置いといて欲しい。

「はぁ……」
「ンな、ため息つくなって、な?」
「……。」
「ここケーキも美味ぇんだとよ。ほら、なんか頼め」
「えっ、ホント?じゃあ、チーズケーキを……って、そうじゃなくて!」

ククっと笑っている琥一くんの向こうで黙々とグラスを拭いていたマスターとウェイトレスさんが、小さく吹き出したのが見えた。

は、恥ずかしい……。
なんでこんなことに……!

「琥一くんのバカ!なんでもいいからリクエストしてよ!欲しいものは自分で手に入れるのがポリシーだっていうんなら、ものじゃないものをリクエストするとかしたらどうなの!?肩たたき券とかお手伝い券とかそういうものでもダメなの!?なんでもいいから言ってよ!」
「肩たたき券って……俺はオマエの親父じゃねーぞ」

琥一くんの冷静な切り返しがダメ押しになったのか、視界の奥にいる二人が盛大に吹き出した。

「わ、わかってるよ!わかってるけど、こういう例えしか出てこなかったんだもん!」

どうしよう。
今すぐここから逃げ出してしまいたい。
今この瞬間、穴があったら入りたいと世界で一番願った人間はわたしだと思う。

「ああもう、わかったわかった。そこまで言うんならオマエの時と同じことをしてもらおうかね」
「……わたしの時と同じことというと……ええっと、ひょっとしてあれを……するの、ですか?」

恥ずかしさで現実から目を背けようとしていた意識が、一瞬にして戻ってきた。

「なんでもいいからっつったよな?」
「……はい」
「あんな風にまくし立てといて、まさか出来ねぇなんて言わねぇよな?」
「……はい」
「女に二言は?」
「……ないです」
「だよな」

頭を抱えたわたしに琥一くんは満面の笑みを浮かべ、すげぇ楽しみにしてっからよ、と言い放ちコーヒーを飲み干した。


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