そうして今年も美奈子にひとつお願いごとを聞いてもらえる日を迎えた。
『ずっと隣にいて欲しい』
『ずっと笑っていて欲しい』
『ずっと俺だけを見て欲しい』
真面目でひたむきな美奈子は、俺の願いごとに真摯に向き合い、律儀に言葉通り叶えようとした。
そう、それはまさしく「言葉通り」に。
俺から片時も離れることなく、どんなことがあっても笑顔を絶やさず、俺以外の誰とも接しない美奈子。
俺の願いどおりに変わっていく美奈子を一番近くで見てきて、不安を覚えるどころか言いようのない歓びが胸を支配する。
俺に幸せを与えてくれてありがとう。
俺に生きる希望を与えてくれてありがとう。
俺の隣にはいつも美奈子がいて、美奈子の隣にはいつも俺がいる。
これ以上望むものなんてなにもない完璧な世界。
俺は幸せだ。
だって、美奈子が俺の望むことを全て与えてくれるから。
――なのに、俺はどうしてまだ……。
じわじわと侵食し始めたその感情を振り払うかのごとく、頭を大きく振り、そうして告げる。
「ねえ美奈子、今年の願いごとはね……」
願いごとを聞いて、寸分たりとも狂わない綺麗で完璧な微笑みを浮かべながら頷く美奈子。
来年も再来年もこの先ずっと、この幸せが続けばいいと願いながら。
微かに震える指先に気づかぬふりをして、美奈子の温もりを確かめるように抱き寄せた。