short stories | ナノ




「えっ?琉夏くん、今日誕生日なの?」

それは、俺たちが再会してから初めて迎えた俺の誕生日のこと。
そう、ちょうど隣を歩く美奈子の歩幅に意識しなくても合わせられるようになっている自分に喜びを感じることに戸惑いを感じ始めていた頃だ。

「うん。そうなんだよね」
「そうなんだよね、ってなんで他人事なの?」
「うーん、だってもうこの歳だし?いつまでもガキみたいに喜んでらんないでしょ」
「この歳ってまだ16なのに?えーそれってちょっと……」
「ちょっとオジサンみたい?」

そう言っていたずらっぽく笑うと、美奈子はふふっと柔らかく笑う。
その顔を見るたびに、胸の奥がチクリと痛むのは何故なんだろう。

「そっかぁ、今日誕生日なのかぁ……あ、ねえ琉夏くん、この後時間ある?」
「時間?あるけど、どうして?」
「じゃあ、ショッピングモール行かない?ほら、この前ショッピングモール行った時にホットケーキの形した時計いいなって言ってたじゃない?それプレゼントしたいなって思って」
「いい、いらない。そんなつもりで誕生日のこと言ったんじゃないし。俺は何もいらない」
「でも……」
「何を言われても行かないよ」
「ええー……あ、じゃあ!」

きっぱり断られて一瞬目を伏せた美奈子だったけど、すぐに復活し両手を合わせて目をキラキラさせながらこう言った。

「琉夏くんのお願いなんでもひとつ聞く!はい、どうぞ言って言ってー」
「……はっ?」
「あ、でも、ああいうことだけは、ダ、ダメだからね」
「ああいうのって?ああ、何、俺のお願いなんでも聞くってそういうこと言って欲しかったとか?」
「ち、違う」
「そんな回りくどいマネしなくても美奈子にならいつでもチューするのに」
「だから違うって!」

抱き寄せようと広げた腕からくぐり抜け、顔を真っ赤にさせた美奈子は思いっきり否定した。
その慌てふためく姿が面白くて、思わず吹き出してしまった。

「琉―夏―くーん!」
「ははっ、ごめんごめん」

少しだけ宙を彷徨った手が、自然と美奈子の頭の上に収まる。

「もうっ、ちょっと!髪の毛がぐしゃぐしゃになるからやめてー!」
「大丈夫だって。髪が乱れても美奈子はカワイイよ」

いいな、こういうの。
なんてことのないことで笑い合えて、そして側には美奈子がいて。
こういう日々がずっとずっと……。

「あ、決めた」
「決めたって何を?」

乱れた髪を直しながら、首をかしげる美奈子の目を覗きこみ手を取る。

「ほら、さっきなんでもひとつお願いを聞くって言ったじゃない?」
「う、うん」
「もう、そんな警戒しなくても大丈夫だって。ね、美奈子。来年も再来年もずっとずっと、こんな風に美奈子と楽しく過ごしたい。これが俺のお願い」

来年だとかずっとだとか、未来や永遠を約束することなんて俺には一生ないと思っていたのに。
どうしてだろう、美奈子と一緒にいられるのなら未来や永遠を信じられるって思ったんだ。

「……そんなことでいいの?」
「俺にとっては、そんなことじゃないよ。これが一番の願いごとで最高のプレゼントだから」
「で、でもそれだけじゃ……あ、じゃあ毎年琉夏くんのお願いごとを必ずひとつ聞く、っていうのはどうかな?」
「……いいの?」
「もちろん!あ、でもああいうことだけは」
「ダメだからね、でしょ?分かってるって。でもさー、そのうち美奈子の方からああいうことしたいなって言うとおも……って痛っ!」

軽く叩かれた腕をさすりながら、先に行こうとする美奈子を追いかける。
その日嗅いだ海の香り、辺りを照らした日の温度、響く二人の足音、全てを忘れないと思った。


-2/3-
prev next

[return]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -