short stories | ナノ




俺らに引っ張りあげられた美奈子は、はばたき市街が一望出来る場所に走っていき、感嘆の声を漏らした。

「街もあの頃より随分賑やかになったよな」

「……うん。でもここはちっとも変わってないね」

「ああ、そうだな……ってオマエいきなり寝転がるんじゃねぇ!服汚れんぞ。仮にも……かわ…い、いや、女っぽい格好してんだから、よ」

ふふっと笑いながら青々とした芝生に寝っ転がった美奈子に、コウはちょっとだけ本音を漏らす。
あーあ、薄暗い中でも分かるくらい顔赤くしちゃってさ。
俺がいること、忘れてんじゃないよね?

「ねえねえ、あの時みたいにさ、また流れ星見つけて願い事しようよ」

流れ星にも負けないくらい目をキラキラさせた美奈子を挟むようにして立っていた俺たちは、そのままのポジションで美奈子に寄り添うように横たわった。

柔らかな光をたたえた月が浮かぶ雲一つない空を見上げ目を凝らす。

星はいくらでも流れてるはずなのに、街の灯りよりも星の放つ光の方が弱いのか、しばらく見つめていても、なかなか見つけることが出来なかった。

「うーん、流れ星見つけらんないね」

美奈子はぷるぷるしたくちびるを少しだけ尖らせる。

「……いや、大丈夫だ。もう少しで目が慣れてくるはずだから、そん時が勝負だ」

組んだ腕を枕がわりにして寝っ転がっているコウが言う。

「コウくん、詳しいんだねぇ」

「美奈子、コウはさ、オマエが引っ越したあと、時間を見つけてよくここに来てたんだ。顔に似合わず意外とロマンチストだろ?それで、今じゃすっかり星好きになったんだよ」

少し離れたところで、芝生が擦れる音がした。
コウ、なんで俺がそんなこと知ってんだって驚いちゃったんだな。

そりゃ知ってるよ。
俺ら、美奈子のことになると、いつも同じこと考えてたろ?
そしてそれは、今も昔も変わってない。

「バッ、何言って……っつか、オマエだってそうだったろうよ。メシの時間になっても帰ってこねぇからって探しに出たら、大抵ここにいたじゃねぇかよ」

「まあね」

しれっとそう答えたら、コウは虚をつかれたようで黙ってしまった。
俺に口で勝とうなんて百万年早いよ。
「そっかぁ、祈ってくれてたんだ。嬉しいなぁ。じゃあ、今こうして一緒にいられるのは二人のおかげだね。ありがとう」

そう言いきってしまうオマエはあまりにも純粋で。

――会いたい、会いたい、会いたい。お願いです、美奈子にもう一度会わせてください。

オマエといると、心からそう願ってたあの頃の純粋な俺たちに戻れる気がするんだ。

だからあの頃と同じ「三人でいること」を求めてしまうんだろう。
この関係を壊したくなってしまったとしても、それに踏みきれないのは、一番綺麗な思い出を失ってしまうのが怖いから。

「オマエはさ、俺たちにとって特別で大切な女の子なんだ。今までもこれからも、ずっとずっと。出会えて良かった。また会うことが出来て良かった。ねえ、美奈子。生まれてきてくれてありがとう」

「美奈子……誕生日、おめでとう」

あの頃みたいに、三人並んで手を繋ぐ。
少しだけ鼻声になったオマエのありがとうが耳に届く。

オマエがここにいることに感謝しよう。
願い事ではなく、感謝を。

その瞬間、ちょっとだけぼやけた視線の先で流れ星が瞬いた。


-6/6-
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