目の前に差し伸べられた二人の手を取る。
その瞬間に広がった温もりが、わたしの記憶を鮮やかに蘇らせてくれた。
そうだ。
ここは、わたしが引っ越す前に三人で来た場所だ。
この丘で見た流れ星に願いをかけたら、その願い事は必ず叶うという言い伝えのある場所。
二人とは、両親が桜井組に家の建築をお願いしたときに出会った。
事務所の方に何度か足を運ぶうちに、両親同士、気があったようで家族ぐるみのお付き合いをするようになり、同い年だったわたしたちは、息をするように自然と仲良くなっていった。
そんな中、急にお父さんの転勤が決まり、遠くへ引っ越すことになってしまった。
家を建て、はばたき市に腰を落ち着かせようとしていた矢先のことだったから、両親はこれからの生活をととのえることに精一杯で、わたしのケアにまで十分に手が回らなかった。
「何年かしたらまたこっちに戻ってくるから、ずっと離れるってわけじゃないのよ。大丈夫よ、美奈子。ね、だからもう泣かないで」
と、何度もお母さんに説明されてあやされても泣き止むことはなかった。
今思えば、困らせることをしたなと思う。
だけど、わたしにとっての子どもの頃の年月というのは、大人が思ってるそれよりも遥かに密度が濃いもので、今という時間を手放したらもう二度と元のようにならないのではないか、と感じてしまうほどのものだったから。
だから。
――ルカくんとコウくんに、もう二度と会えなくなってしまうんだ。
その思いだけが頭の中でぐるぐる渦巻き、居座って離れなかった。
わたしが遠くへ引っ越すことを二人に伝えたあの日。
二人と離れるのが嫌で、その日もずっと泣いていた。
ともすれば、わたしと一緒になって泣いてしまいそうになりながらも、堪えて宥めるようにわたしの頭を撫でていたルカくん。
「マジかよ……」
と呟き、一つ大きなため息を吐いたあと、眉間にシワを寄せながら何やら考えごとをしていたコウくん。
「やだ…二人に会えなくなるなんて……やだよ…」
嗚咽まじりの声でただただ泣いていたら、コウくんの掛け声がして、二人の手を取り、歩き出していた。
こうして、あの夜の小さな冒険が始まった。