月明かりを背に、アイツらを呼ぶ。
街の喧騒が届かない静かなこの場所で、バカでけぇ声出す必要なんて全くなかった。
だが、少し離れたぼんやりとした光の中でも、あいつらの様子が手に取るように分かってしまった。
だから、早く声かけて呼ばねぇとって焦っちまって……。
チッ、こんくれぇの余裕もねぇとか……ダセェな、俺。
ため息一つ吐いて、地面を軽く蹴った先にあった石ころが、走ってやってきたルカの方に転がっていく。
「懐かしいな、コウ」
丘の上から景色を臨み、俺の隣に立ったルカはフッと笑みを浮かべる。
「さっきはありがとな」
ルカは景色を臨んだまま、そう呟いた。
その目は、どこを見ているのだろう。
現在か過去なのか。
それとも未来を見ているのだろうか。
「ルカくん、コウくん速いよ!置いてかないでよ、もう!」
慌ててやってきた美奈子は、丘の頂上の手前で俺らの姿を認めて、力が抜けたのか両ひざに手を置いて肩で息をしている。
「なんだオマエ、こんくれぇで根あげてんのか。もっと鍛えた方がいいんじゃねぇか?」
「違いますー!コウくんたちのペースが速すぎるんです。ちょっとは女の子のスピードも考えてよね」
「ヘェ……どこに女がいるんだ?」
「コウくん、ひどい!」
「違うよ、美奈子。コウはひどくなんかないよ。ただ小学生並みの感情表現しか出来ないだけなんだ。ほら、可愛い子ほどいじめちゃうって言うだろ?」
「も、もう!二人してからかわないでよ!」
俺がいつものように憎まれ口を叩く。
ルカがいつものように俺をからかうような軽口を叩く。
美奈子がいつものように顔を赤くして慌てふためく。
ルカ、これだろ?
オマエがさっき言った「ありがとな」の意味は。
俺だって壊したくないものは、オマエと一緒なんだ
「ほら、美奈子。手ぇ出せ。おら、ルカも。まだまだ手のかかるお姫様を、引き上げてやるぞ」
あと数歩のところで動きが止まってしまった美奈子に手を差し出した。