short stories | ナノ




美奈子と再会した時、俺らは三つの取り決めを作った。

一つ。
West Beachに人を呼べる状態になったら、初めてのお客さんとして美奈子を連れてくること。

二つ。
美奈子を悪いムシから守ること。

三つ。
あの場所に美奈子を連れていくこと。

一つ目と二つ目はあっさりと実現した。
まあ、二つ目の悪いムシがつかないように守るってのは今も継続中だけど。

俺たちが少しでも目を離すと、その隙を狙って、タメ以外のヤツらも美奈子に話しかけてくる。
俺とコウの笑顔見て一目散に逃げるぐらいの心意気しか持ってないんなら、最初から近寄ってくるんじゃねぇっつの。

そんな奴らが俺らに勝てる要素なんて、一つもないんだからさ。
でもま、コウの笑顔は……かなりアレだから逃げちゃうのも分からないでもないけど。

「ね、ねぇ、どこまで行くの?」

少しだけ息を切らした美奈子が、眉毛をハの字にして不安そうに聞いてくる。
美奈子は、三つ目の取り決めを実現するべく、向かっているあの場所のことを未だ思い出せないらしい。

当然っちゃ当然か。
あの時、美奈子は泣きじゃくっていて、とめどなく溢れ出る涙を拭うこともせずただ俯きながら俺らに付いてきてたからな。

そんな状態だったから、美奈子がはっきりと見たのは、多分あの場所から見える景色だけだ。

「美奈子、疲れた?ごめんね、もうちょっとだから頑張って」

そう言って美奈子の頭を撫で、額を流れる汗を拭う。
美奈子の表情は、薄暗い月明かりでしか読み取ることは出来ないけど、それでも十分に分かる。

ほっぺたを赤くさせた原因が、このちょっとしたハイキングのせいだけじゃないってことを。

なあ、美奈子。
オマエ、そんな顔、俺ら以外…ううん、俺以外のヤツにも見せてんの?

そんな顔誰にも見せちゃダメだよ。

じゃなきゃ、絶妙なバランスの上で成り立ってる今のこの関係を俺も……コウも壊したくなってしまうだろ?
俺たちはさ、もう何も失いたくないんだ。
何よりも大切なこの関係が、どれだけ完璧で歪な形であったとしても。

「おい、ルカ、美奈子!さっさとこっちに来い」

声がする方を見たら、先に進んでいたコウが、丘の頂上で月明かりを遮るように立ち、手招きしていた。


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