泣かせるつもりじゃなかった。
ただ、分かって欲しかったんだ。
俺だって、十分に男なんだってこと。
ガキの頃みたいに、お手手つないでお出かけするだけじゃもう飽き足らないんだってこと。
――俺の隣で笑っていてくれるってことだけで、幸せ。
それは事実で、偽りだ。
今日みたいな日には、一番にそれを願うだろう。
だけど、ホントはずっと前からそんなんだけじゃもう限界になってきてる。
ねぇ、そんなこと思うのは俺だけなの?
美奈子は俺を欲しがったりしないの?
「美奈子」
両ひざに顔を隠すように、膝を抱えてる美奈子の身体がびくっと震える。
こんな風に怯えさせたかったんじゃない。
ただ、俺と同じ気持ちになって欲しかっただけだ。
「美奈子、ごめん。怖がらせてごめん、怖がらせたかったわけじゃないんだ」
それだけ言うのがやっとの俺に、美奈子は顔を伏せたまま首をぶるぶる振る。
「る、かちゃんは悪くない。悪い、のはわたし」
涙声のまま、美奈子は必死に言葉を紡いでいく。
「るか、ちゃんが怖かった、わけじゃないの。わたし、が、わたしじゃなくなっちゃいそうで、怖かったの」
キスどころか俺に抱きしめられるだけで、頭の中がぐちゃぐちゃになるくらい意識して、いつの間にかそれ以上を求めるようになっていた。
だけど、女の子が普通そんなこと思っちゃうのはおかしい気がするし、これ以上ちょっとでも触れあっちゃったら、タガが外れて、俺を求め続けてしまうようなことになっちゃう気がして、俺にはしたない女だって思われて嫌われてしまうのが怖かった。
だから、触れあわないようにしていた。
これが美奈子が時間をかけて話してくれたことの全てだ。
参ったな。
男か女かの違いはあれど、俺ら同じようなこと考えてたってこと?
「ねぇ美奈子、顔上げて?俺さ、今ちょー嬉しいんだけど、なんでか分かる?」
ゆっくりと上げた顔の涙の筋はまだ乾いていない。
その雫を拭うために手をそっと近づける。