「おーい、コウちゃんどうかした?あ、ねえ、今コウちゃんがいるところからお月さま見える?」
凪いだ海に伸びる金色の光を辿り、夜空を見上げる。
そこには柔らかな光を放つ月が浮かんでいた。
「……ああ、こっからも見えるぞ。綺麗なオレンジ色してんな」
「コ、コウちゃんも、オレンジ色って思った?」
美奈子の声のトーンが上がる。
「ん?ああ、そうだけど…俺も、ってどういう意味だ」
「だって、お月さまって大体黄色って言い表されるじゃない?だけど、わたしもね、オレンジ色だなーって思ったの。コウちゃんの好きな色したお月さまだなーって」
今、オマエがどんな顔してんのか手に取るように分かった。
そして、オマエが目の前にいなくて良かったって思った。
じゃねーと、オマエをこの思いっきり抱きしめちまってたはずだから。
抱きしめちまうだけじゃねぇ、メーター振りきっちまってそれ以上のことまでしていただろう。
畜生。
いつの間にこんなにコイツにハマっちまったんだ。
再会した時は、妹分としてしか見れなかったのに。
美奈子といるうちに、『ルカみてぇに』とか、『ルカといた方がいいんじゃねぇか』とか、そんなこと思っちまうようになっても、美奈子を諦める気持ちにはならなかったのが、俺の気持ちの証明になってんじゃねぇのか。
俺の中で美奈子はもう、立派な『女』だ。
誰にも渡すことは出来ねぇ存在になってんだ。
「ああ、オマエと一緒のこと思っちまうなんて、なんつーか…こういうのってすげぇ嬉しいモンなんだな」
真っ暗な夜空にぽっかりと浮かぶオレンジ色の月の光を受け、気持ちの歯止めってモンが効かなくなっちまったのかもしれない。
今はまだ、そういうことにしておこう。
そのうち、取り繕うことが出来ないほど、どんどん溢れ出ちまうようになるはずだから。
携帯の向こうで少しだけ慌ててる美奈子に言う。
「美奈子、明日、出かけんぞ」
「……うんっ!」
視線の先にある月がより一層柔らかなオレンジ色になったような気がした。