「おう、大丈夫だ。なんだ?どうした?」
冷たい金属の塊の向こうから、温かく包み込むような柔らかさを与えてくれる声の主。
その声を聞くと、頬は頭ん中で意識する前に自然と緩んでしまう。
「ふふっ。良かった。昨日、楽しかったね」
「……ああ。そうだな」
何カッコつけてんだ、俺。
そんな簡単な返事じゃ表しきれないほど楽しかった。
家まで送り届けたくせに、帰したくねぇって思っちまうくれぇ楽しかった。
だが、ンなこと言えるわけねぇ。
いつまで経ってもホントの気持ちってヤツは、放たれることなく俺の中でぐるぐる回り続けている。
「ねえ、昨日の夜、コウちゃんがメールくれたでしょ?わたしの声が聞こえた気がして、わたしのこと探してしまうって。実はね、メール貰ったときわたしも同じようなこと考えてたの」
耳に響く声は、気のせいだろうか、いつもよりほんの少しだけ甘い。
「同じときに同じようなこと考えてるって、見透かされてるみたいで恥ずかしいけど、なんかいいなって思ったの。
そしたら、コウちゃんの声が聞きたくなって…明後日学校だし、我慢しようって思ったんだけどやっぱり我慢できなくて……なーんて昨日も会ったのにおかしいよね、わたし」
とても照れ臭そうで、でも嬉しそうで。
俺も今声を出したら、コイツと同じような声になるんだろう。
メールでは幾分素直になれるのに、実際に言葉にするとなると変なプライドが邪魔をしてしまう。
――俺だってオマエと同じこと考えてたんだ。
こういうのはルカが言うと様になるセリフかもしれねぇな。
女からしてみたら、くせぇセリフでも本音ならちゃんと言って欲しいモンなんだろうが。
ってことは、オマエは俺じゃなくて、アイツといた方がいいんじゃねぇのか――…?