「……ルカちゃん」
頭の上にあった手を取りギュッと握って、一瞬目を伏せたあと、美奈子は俺をじっと見つめ返してきた。
俺と同じようなぎこちない笑顔と共に。
「ん、どした?」
「……。」
美奈子は、俺の問いには答えずに、繋いだ手をより一層強く握りしめた。
小さな手に込められた予想以上の力。
それが意味するのは、俺が思ってるのと同じ気持ちってことかな?
そうだとしたら、すごく嬉しいよ。
大好きな子と同じ気持ちでいられるなんて、それはとても幸せなことだから。
今日はもうこれで十分だ。
帰る時間がこれ以上遅くなって、オマエのお父さんとお母さんに心配かけちゃいけないから。
だって、俺たちはまだまだ子どもだから。
だから、色んなことをゆっくりと一緒に経験していける時間もたっぷりあるんだ。
な?
だからさ、そんな思い詰めたような顔してないで、笑って。
「美奈子は、甘えん坊だな。そんなに俺といたいんなら、このままオマエの部屋まで連れてってもいいよ?オマエの好きにして」
小首を傾げて、おどけながら美奈子を見つめる。
「も、もう!ルカちゃんったら…」
すっかり暗くなった中でも、美奈子の顔が赤くなっていくのが分かる。
手を繋いでる状況にも恥ずかしくなったのか、ギュッと力強く握りしめていた手をパッと離す。
「ちぇっ、美奈子、俺のこと好きにしてくんないのか…美奈子のためだったら何でもやるのにな。残念」
そう言って、くちびるを少し尖らせると、美奈子が俺の胸を軽く叩いて、「もうっ!」って言いながら笑ってくれた。
大好きなオマエのその笑顔を一日の締めくくりにしよう。
一緒に居られない時は、オマエのその笑顔を、二人で過ごした時間を思い出すんだ。
寂しさを感じる暇もないほどに。
オマエが笑ってくれる、ただそれだけで日々は楽しくて、幸せな記憶はどんどん増えていく。
そしてさ、いつの日か夜の帳が下りても一緒に過ごせる日が来たら、こんなこともあったよね、って一緒に笑い合おう。
「ほら、もう真っ暗だからおうちにお入り?」
肩に手をやり、美奈子の身体をくるりと一回転させ、ぽんと背中を押す。
美奈子はドアを開け、俺の方を向いて笑いながら手を振る。
「ルカちゃん、またね」
「うん、また」
美奈子の部屋に明かりが点くのを見届けてから、West Beachへと歩を進めるために身を翻す。
夜空に輝くのは、瞬く星とぽっかり浮かぶまんまるい月。
さっきよりも肌寒くなった月が照らす街を、一人歩く帰り道。
二人で歩いていた時よりやっぱりちょっと寂しいけど、でも、思ってたほど寂しくはない。
それは幸せな記憶がまた一つ増えたから。
柔らかく光る月を見上げ、口笛を吹きながらWest Beachへとゆっくり歩を進めた。