▼ Happiness
少し肌寒くなった夕暮れの街を、二人並んで歩く帰り道。
いつからだろう。
美奈子を家まで送り届けるのが、デートとした帰りのお決まりのコースになっていた。
一秒でも長く一緒に居たくって、ちょっとだけ遠回りをする。
それに歩くスピードも、一人の時より随分ゆっくりだ。
それでも、歩き続けていればいつかゴールはやってくる。
たとえ、このままずっと一緒にいたいと願っても。
「……バイバイ」
「うん、ルカちゃん……またね?」
美奈子は、そう言いながらも、家の中に入っていこうとしない。
なぁ、名残惜しい?
もっと一緒にいたい?
俺と同じようにさ。
だけど、それは今の俺たちには無理なことなんだ。
「ねぇ、美奈子。オマエが家ん中入ってくれないと、俺、心配で帰れないよ?だから、ほら、な?」
頭に手を乗せ、ポンポンと軽く叩いて、美奈子のくりっとした目を覗き込み、にっこり笑う。
張りついたようなぎこちない笑みで。
心から笑えないのは、美奈子と離れたくないから。
出来ることなら、もう一時だって離れたくない。
だけど、俺たちはまだまだ子どもだから。
だから、夜の帳が下りる頃には、それぞれの家へと帰らなくちゃいけないんだ。
帰る家がある。
戻る場所がある。
それはとても幸せなことだけど、なんだかときどき泣きたくなるほど切ない。