short stories | ナノ




そうか…!
今日、お母さん出掛けに
「飛び出せ青春!青春っていいね」
なんて、親指をぐっと立てながら意味分かんないこと言ってた。
お母さんがチョコをすり替えたんだ!

お母さん…あなた、なんてことをしてくれたの。
もう、顔から火が出るほど恥ずかしいよ!


「美奈子、どした?」

跳ね回ってたルカちゃんの顔が、いつの間にか目の前にあった。

「あ、ううん…なんでもない」

「そっ?ね、美奈子。チョコあーんしてもらえる?」

ルカちゃんの突然の申し出に、私の思考回路は数秒停止する。

はいぃー?
あーんて…ええ!?
ちょっと待って…いくら周りに生徒がいないとはいえ、ここ学校なんですけど……。


でも、目をらんらんと輝かせて期待しきっているルカちゃんを見たら、断るのも憚られる。

恥ずかしいけど、ルカちゃんが喜ぶなら……。

覚悟を決め、チョコを一口サイズに割ってルカちゃんの口に持っていく。

「美奈子、ダメダメ。ちゃんと『あーん』って言ってくんなきゃ。ね?」

マ、マジですかい……。
ルカちゃん、ハードル高いよ!

ほら早く、と促されると同時に、私はそれをやるしか道がないことに気づく。
バレンタインってこんなに恥ずかしいもんだったっけ?

「あ、あーん……」

ルカちゃんは私の指ごと、ぱくっと口に含む。

指先にルカちゃんの舌の感触が伝わるたび、いけないことしてる気分になってきて、身体中が茹で上がるんじゃないかってくらい、熱くなってきた。


「ル、ルカちゃん、くすぐったいよ」

「だって、美奈子の指も美味しそうだったんだもん」

ルカちゃんは、口に含んでいた私の指を抜き、私を見つめながら再び指をペロリと舐める。


「も、もういい……!」

私のセリフはそのままルカちゃんの口内へと吸い込まれていく。

さっきまで指を舐めていた舌が、私の舌を捉え、蠢いて絡み付く。

ルカちゃんから与えられるものは、全てがひどく甘い。


それはチョコよりも甘く、全てが蕩けるようなキスの味。
身体も心も、私の全てがルカちゃんに溶けていく。

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