「あっ、琉夏くん。私、いつもホットケーキミックスで作ってるんだけど、それでもいいい?その代わりと言っちゃあなんだけど、バナナとヨーグルトを入れて、少しアレンジするよ」
「美味しそうだね。奏が作ってくれるものなら何でも嬉しいんだ俺」
えっ…マジですか。まっすぐに伝わるストレートな言葉。
実際に目の当たりにすると、その笑顔と声のコラボレーションは、画面で見るより、ヘッドフォンで聞くよりはるかに凄い。
条件反射的に動きが止まり、そして急激な体温上昇を感じた。
「どしたの、奏?顔が赤いよ?熱あるんじゃないの?」
手を私の額に伸ばしかけた琉夏くんを慌てて制する。
「な、なんでもない!至って元気、全然大丈夫!」
見とれてました、なんて言えるわけない。
言ったら最後、何かを取られる気がする。
集中集中。雑念を消すんだ、自分。
黙々と機械的にホットケーキの生地を作っていたら、琉夏くんは待つことに飽きたのか、琉夏くんがいるこの世界について質問してきた。
「ねー、奏。ここってなんていう街なの?」
「ここはね、、琉夏くんの世界にあったかは分かんないんだけど、沖縄っていう場所だよ。」
「知ってるよ、沖縄!南にある島でしょ?海がきれいなところ」
「そうそう。へー、ちゃんとGSの世界にも設定されてるんだね。なんか嬉しい」
自分の住んでいる所を、琉夏くんが知っていることが素直に嬉しくて、自然と笑みがこぼれた。
「奏!なにその笑顔。ちょーカワイイ」
「え、あ、ありがとうございます。でも、ホットケーキ以外何もないからね!今食材ほとんどないの」
「それ狙いで言ったんじゃないんだけどな…。うーん、奏の心を突き崩すのはムズカシイな。あっ、そだ!じゃあ、買い物を兼ねて、ホットケーキ食べ終わったらどっか連れてって、奏?」
「わかった。じゃあ、ホットケーキ食べ終わったら、出かけよっか。琉夏くん、行きたい所考えてて?そこに雑誌あるから」
リビングのソファの上に放っておいたままの観光ガイドを指差し言う。
「オッケー。じゃー色んな所に連れてってもらおっと!」
ちょうど私を見上げる角度にいる琉夏くんの上目遣いが、私の動きを再び停止させる。
琉夏くんの提案なら全て飲み込んでしまいそうになる。翻弄されそう。
そんなんじゃいけない。時間には限りがあるんだから。
明日は仕事だし、なるべく早く帰って来なきゃ。
「ううーん。たくさんの場所をまわる時間は無いと思うけど…頑張ってみるよ」
それが私に出来る精いっぱいの譲歩だった。