部屋全体に夕餉の香りが漂い始める。
ああ、こういう風に誰かのために作るご飯って久しぶりだなあ。
自分のためだけに作るご飯ってエネルギーを摂るのためだけに作ってる感じがして少し味気ないんだよね。
盛り付けをしたご飯をテーブルに並べて琉夏くんを呼ぶ。
「琉夏くん、ご飯出来たよ。座ってー?」
「はいよー。」
ベランダから戻って来た琉夏くんは手を洗って、私の横に座る。
「じゃあ、食べよっか。いただきます。」
一緒にいただきますを言って、ご飯に手をつける。
「なあ、奏。これってもしかしてタラコおにぎり?」
「そう、琉夏くんの好物でしょ。私あまり上手く握れないからいびつな形してるけど…。」
「俺の好物覚えててくれたんだ。ありがとう。あー美味ひい!」
「ちょっと、喋るか食べるかのどっちかにしなよ、もうっ。ご飯粒落としちゃうよ。」
「だって、美味しいんだからしょうがないじゃん。あ、この味噌汁の具は何?」
「きっと、琉夏くんが今までに食べたことのないお味噌汁の具だと思うよ。ふっふーん、それはね、スパムのお味噌汁だよ。あと、じゃがいもも入ってます。」
「スパムって…あの缶詰の?それを味噌汁の具にしちゃうの。美味しい…のか?」
「しちゃうの。まあ、まずは一口味見してみなよ。絶対に美味しいから。」
しばらくどうしたものかと躊躇していた琉夏くんだけど、意を決したようにお味噌汁に箸をつけた。
「どう、美味しいでしょー?」
「なにこれ…絶対に合わないと思ってたけど…美味い!」
「でしょ?私、お味噌汁の具で一、二を争うくらい好きな具なんだよ。琉夏くんにも気に入ってもらえて良かった。」
それからというもの琉夏くんは、お味噌汁おかわりするわ、私の分までおにぎりを食べちゃうわ、なんの変哲もない野菜チャンプルーも食べきっちゃうわで、その細い身体のどこに入っていくのか心配な食べっぷりだったけど、美味しいを連発しながら食べてくれて。
作った甲斐があったし久しぶりに誰かと囲む食卓は、楽しかった。絶対に忘れないよ。