「ねえ、琉夏くん。琉夏くんっていつもこんなに早起きなの?私、絶対にギリギリまで寝てる人だと思ってたよ。」
「へ、俺?俺はいつもギリギリまで寝てるよ。そしてコウに叩き起こされんの。アイツ、無駄に早起きなんだよな。でさ、起こすときの顔がちょー怖いの。どっかのスナイパーみたいな目してんの。」
「スナイパーって…でも簡単に想像出来ちゃうのはなんで…?」
「だろー?一仕事終えてきました、みたいな目で起こされるとさすがに俺も怖かったりする。」
「ハハッ、琉夏くん酷いよ。でも、琥一くんはホントいいお兄ちゃんだよね。…ん、じゃあなんでここでは早起きしてるの?」
琉夏くんは、なんだそんなことかというような顔をして得意げに答える。
「だって、早起きしたら一緒にいる時間が長くなるじゃん。あっ…。」
誰と、だなんてその表情を見れば聞かなくても分かる。
まさか、早起きの質問からそういう展開になるとは思わなかった。
もうどんな話をしても、こそばゆい雰囲気から逃れられないんじゃないかという気になってきてどこにも動けない。
どうすればいいの。
その時、私の携帯からのんきなメロディが流れてきた。
その音を聞いて、金縛りが解けたかのように素早く電話を取る。
『もしもしー奏、おはよう。今、電話大丈夫?』
優花ちゃん…大丈夫もなにもこれ以上ないバッチリなタイミングです。
『うん、もちろん!大丈夫。っていうか大歓迎!』
『はっ、どうしたの?朝からテンション高くない?変なの。あ、あのさー今いつものコーヒーショップにいるんだけど、なんか買ってこうか?』
『あ、あー!そうだ、そうだったね。優花ちゃんごめん、約束してたの忘れてた。今から向うから、ちょっと待ってて。』
『ちょ、ちょっと待って奏。私、約束なんかしてない…』
『ホントにごめん。今出るから、じゃあ後でね。』
…優花ちゃんごめん。このいたたまれなさから一刻も早く抜け出したかったの。
「…と言うわけだから、琉夏くん、私もう出かけなくちゃ。ごめんね、なんだか慌ただしくて。」
「う、ううん、約束あったんだろ?ほら、俺に構わないでさっさと出かけなきゃ。」
いつもと違うペースに琉夏くんも戸惑ってたみたいで、少しだけホッとした顔をしていた。
嬉しいんだけど、恥ずかしい。
恥ずかしいからいたたまれない。
きっと琉夏くんも私と同じ気持ちだったんだ。
「じゃあ、行ってきます。琉夏くん、お昼ごはんは…」
「昨日聞いたのと一緒でしょ?分かってるって。あ、そうだこれ、お昼に食べて。」
琉夏くんが差し出したのはアルミホイルに包まれた温かい二つの丸い塊。
一つ一つの大きさが私の掌より大きくて重量感もたっぷり。
「琉夏くん、これって…。」
「まあまあ、お楽しみは後に取っときなよ。それより早く出かけなきゃ、だろ?ほらこれに入れて。じゃあ、気をつけて行ってらっしゃい。」
キッチンに置いてあった紙袋を私に手渡すと、琉夏くんは手を振って送り出す。
その仕草がやけに綺麗で少しだけ見とれてしまった。