その理由に気づくまでどれくらいの時間がかかったのだろう。
一人きりじゃ自分自身の傷や弱さと向き合うことは出来なかったし、気づくこともなかった。
「琉夏くんがこの世界に来てくれたのは、このためだったのかな…。」
「ん?奏、何か言った?」
「んーん。何にも。」
「そっ?あ、奏。お腹空いただろ。これ持って来たんだ。」
いつの間にか持ってきてた袋から、がさごそとお弁当箱を取り出す琉夏くん。
ねえ、それって…
「はい、ホットケーキ。食べよ。」
やっぱり。
しかもこれ、朝の残りじゃなくてまた焼いたと思われる枚数なんですけど。
「あ、ありがとう。ねえ、琉夏くん。琉夏くんさぁ、本気で家でホットケーキばっか作ってるわけじゃないよね?」
その質問を受けた琉夏くんは心外だなあ、というように少しだけ顔をしかめる。
「奏、ちょっと俺の料理の腕なめすぎ。ホットケーキもカレーも焼き魚もホットケーキも作れるんだからな。あ、ご飯も炊けるし。」
「あのぅ…5種類の作れるかのように見せかけて、4種類しかないと思うんですけど…。」
「奏…聞き逃さないね。大丈夫だよ。コウだって文句言わずに俺の作った飯、食ってんだぜ。」
それは、文句も言わずに、じゃなくて文句を言うことに疲れたんじゃないでしょうか。
琥一くん、なんというか…今、もしここに琥一くんがいたらお疲れ様と肩をポンポンと叩いて労ってあげたい。
「何だよ奏、ぶつぶつ独り言?いらないんなら俺が全部食べるからな。」
「えっちょ、ちょっと待って。私お昼から何も食べてなくてお腹空いてるんだよ。食べさせてよ!」
「…プッ。何もそんなに必死にならなくても…。さ、たくさんあるからたんとお食べ。」
「だ、だって琉夏くんが全部食べるって脅すから焦っちゃったんじゃないの。もうっ、酷いよ。」
笑いながらごめんと繰り返す琉夏くんの顔、風になびくさらさらの髪、焦がしてしまったのか少しだけ苦かったホットケーキ、重なり合った二人の笑い声、波の音、海の香り、その時の温度、湿度全てを忘れないように心に刻んだ。
今思い返すと、私はあの時には頭のどこかですでに分かっていたのかもしれないね。
そろそろ別れの時が近づいてきているということを。