▼ vol.10-Last trip-
「奏さん。ちょっと今日、何度目?気が緩んでるんじゃないの。」
はぁ…やっちゃった。
今日一日で、何回謝っただろう。
そろそろ終業時間だというのに、今日は全然使い物になってない。
いつもなら絶対にしない仕事でのミス。
大事に至ることはないミスだけど…だからといってミスしていいっていうわけじゃないし、何度も繰り返すと地味に落ち込んでくる。
あの日から、生活はどんなにだらしなくても仕事だけは何があっても手を抜かずにちゃんとやろうって頑張ってたのに。
悔しい。
今まで頑張ってきたことって恋愛感情一つでこうもあっさりと揺れに揺れて崩れるものだったの?
でも、これ以上ミスするわけにはいかない。
集中しなきゃ。
今日のミスを挽回するかのように私は黙々と仕事をこなしていった。
「奏。帰らないの?もうとっくに終業時間過ぎてるけど。」
同期の優花ちゃんが声をかけてきた。
「あー優花ちゃん…うん、今日はもう少しやってから帰ろうと思って。」
「そ?じゃあ、私は先に帰るけど…奏、疲れてるんじゃないの?今日元気ない気がするけど…あんま根詰め過ぎるのも良くないよ。手を抜くのは良くないけど、力は抜かなきゃ。力み過ぎてちゃ出来るものも出来なくなるよ。」
言いたいことだけ言って、優花ちゃんはじゃあね、という言葉を残して帰っていった。
今の状態見透かされてる気がしてきた。
優花ちゃんは、物を核心部分だけズバッと言っちゃうからみんなから怖がられたりするけど、本当はみんなのこと良く見てて心を配ってくれる優しい人で。
優花ちゃんのその気持ちがありがたくて、少しだけ肩の力が抜けた。
ホント、私ってその時直面してる一つのことにだけ精一杯になっちゃって、周りを見えなくなっちゃうこと多いんだよな…。
力み過ぎてちゃ、か。まったくもってその通りだよ、優花ちゃん。