「あの島はね、『伊江島』っていうの。百合の時期になると百合がたくさん咲いて、とてもきれいなんだよ。で、あの山は『伊江島タッチュー』っていうの。多分ホントの山の名前じゃなくて通称だと思うけど。」
「イエジマタッチュー?なんか不思議な響き。イエジマは島の名前っぽいけど…タッチューって何?」
「タッチューっていうのは、先の尖った、とかそういう意味じゃないかな?私も方言詳しいわけじゃないからよくわかんないけど。ニュアンス的にはそれであってると思うよ。」
「へえー沖縄の方言って外国の言葉みたいだね。面白い。そうだ、なんで奏は方言で喋らないの?」
「喋らないわけじゃなくて、喋れないの。聞き取れはするんだけど、ほとんど喋ることはできないなあ。私の年代だと、大体そんな感じだと思うよ。」
「そうなんだ。なんで?」
「なんでって聞かれても…よくわかんないよ。方言札の影響…?でも、私の中にちゃんとした確証があるわけじゃないから、断言することができないの。だから『わからない』って言ったの。さっ、もう大丈夫?水族館に入ろうか。」
「なんかムズカシイ感じだね。うん…わかった。今は特にないかな。聞きたいことが出てきたら、またあとで聞くから教えてね、奏先生?」
「だから、もうっ!先生キャラじゃないって言ってるでしょー!さ、もう本当に入らなきゃ。見る時間がなくなっちゃう。」
ねえ…琉夏くん、水族館に来たかったんじゃないの?
目的が私に質問すること、になってる気がしてならないんだけど。
さすがに私ももう水族館に入りたいんです。
きょろきょろして質問する要素を探そうとしている琉夏くんの背中を押し、エスカレーターに乗せ、有無を言わせず水族館の自動ドアを目指す。
こうして私たちはやっと水族館の入口をくぐった。