よく晴れた昼下がり。ぽかぽかとした空気が、もうすぐ春が来るのだと告げているようだ。
こんな日は昼寝せずにはいられない。沖田は絶好の睡眠日和を堪能すべく、巡回中にもかかわらず公園のベンチに横になった。
――ポツッ
夢の世界へ旅立って数分後、水のようなものが頬に落ちきた。
雨だろうか。まさかこんな短時間で天気が崩れるとは。と思いながら、お気に入りのアイマスクをずらしてだらけた体を起こした。
だが視界に飛び込んできたのは清々しい程の太陽。それなのに雨は降っているという的外れな出来事で。
こういうのを何と言ったっけ。確か、狐の…何だっけ。
『狐の嫁入り、です』
綺麗なソプラノが頭上から降ってきて慌てて上を向く。
どきん―――
童顔なのだろうか。同い年にも見て取れる可愛らしい顔、自分の髪より少し明るく黄色に近いそれに、赤い着物と簪を付けている女性。
袖から伸びた白い手には番傘が握られており、それが自分に向けられているのだと気が付いた。
「――あ、あァ、それ、でしたねィ」
漸く出た声は自分でも動揺しているのが分かり、とても情けないものだった。それ程この女性は沖田を惹き付けていたのだ。
彼女はクスリと笑い、控え目に空を見上げた。
『ご存知なんですね』
沖田は「隊士から聞きやした」と言ってその横顔を見つめる。彼女の表情はどこか嬉しそうだった。
不意に彼女がこちらに視線を向ける。どきり、と心臓が鳴り、ただただ何も言えなくなってしまった。
「………」
『………』
何故か彼女から視線が外せない。向こうも同じらしく、どちらも動こうとしなかった。
『……あ、』
何かに気付いたような声に、自分も辺りを見渡す。
「…止んだようですねィ」
『ええ…』
『もう行かなくちゃ』と言い、彼女は沖田から背を向けた。が、それは彼が咄嗟に彼女の腕を掴んだ事により、叶わなかった。
「…また、逢えやすかィ」
どうして訊いたのか分からない。だが、そうしないと二度ともう彼女に逢えないような気がして。
彼女は一瞬目を見開いたが、直ぐに柔らかい笑みへと変わった。
『――きっと、きっと逢えます。沖田さんがこれを持っている限り』
そう言って彼女は再び背を向け、どこかへと歩いて行った。
その背中が見えなくなると、今度は手元に視線を移した。
―沖田さん、ねィ……
口角が吊り上がる。だがそれは決していつもの黒い笑みではなく、大切な人を愛でるかのようなものだった。
「次に逢った時は…嫁にしてやりやしょうかねィ」
彼女を、この赤い番傘に入れて。
貴方の為になら何にでも化けて差し上げませう(毛並みを揺らしながら)
(ずっと夢見てた、愛しい貴方と)-------
………ん?んん?←
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