『沖田せんせー、水酸化ナトリウムの性質が分かりませーん』
無遠慮に理科準備室の扉を開ければ、眉間に皺を寄せた愛しい人の姿が。
「てめェ…いつからそんなに図々しくなったんでィ」
『てへぺろっ』
「きも」
先日、何とも理科の先生らしいやり方で告白をされ、晴れて恋人同士となった私達。
しかし教師と生徒の恋愛というのは世間では認められる筈が無くて。二人の関係は縮まったが、やはり表では壁があるまま。
今日の授業だって目合った(それでも嬉しいけど)だけで、まともに会話をしたのは今初めてだ。
『だって…こーゆー時しか先生と話せないし…』
口を尖らせながら俯く。分かってる、私の我が儘だって。どうしようもない事だって。少なからず覚悟はしていたつもりだったけど、やっぱり寂しいのは寂しいワケで。
先生は黙って私を見下ろす。幻滅したかな。ガキっぽいって呆れたかな。
突然ふわり、と頭を優しく撫でられた。驚いて上を上げれば、少し頬を染めた先生。
「っ、俺だって…」
『へ?先生、今、何て?』
すると今度は髪をクシャクシャにするように撫で回された。
『ちょ…っ、せんせ、』
「何でもありやせん……さて、質問があったんじゃないんですかィ」
『あ、そうだった!ここなんですけど…』
火照る顔を隠すように鞄の中をあさくり、化学と書かれたノートと筆記用具を取り出す。
「潮解性…?こんなのが解んねェのかィ」
『う、うるさいな。本当は授業終わって聞きたかったんだけど…先生、女子に囲まれてたし』
恋人だからと言って、周りが知らなきゃ特別になんかなれない。しゅんとなる私を見て、先生は「悪ィ…」と言った。いや別に、先生が悪い訳じゃないし…
この淀んだ空気(元々は私の所為なんだけど)を何とかしようと、身を乗り出して質問した。
『"水蒸気を吸収して溶解する性質"って言われても、具体的にどうなるのか解んなくて…』
先生は「具体的にねィ…」と暫く考え込み、何か思い付いたのだろう、ニヤリと厭な黒い笑みを浮かべた。
「んじゃ、具体的にどうなるのか実践しやしょうか」
『"実践"…!?』
何か厭な予感がする。先生はスッと立ち上がり、私の目の前に歩み寄って来た。
『あの、ちょ、せん………っ』
大きな左手が私の後頭部をがっしりと掴み、腰に右手を回される。これは所謂、キッスとゆーヤツで。
『ん、……ぁふっ…!?んんっ』
苦しくなって酸素を取り込もうと口を開けば、なななんと…先生の舌が侵入してきた。
『んぁ……ん…っ』
頭の中が真っ白。その筈なのに顔は赤くなる一方で。なんか、溶けちゃいそう…
先生の舌が私のを歯列をなぞれば、ちゅ、というリップ音を鳴らして離れた。
『っはぁ、はぁ……く、るし…』
二人を繋ぐように垂れる銀の糸を見て、また火照り出す。
「……これがチュウ解…じゃねーや、潮解でさァ。解ったかィ」
熱烈な眼差しで言うもんだから、つい目線を逸らしてしまった。
『解んない…もっと、して』
一瞬目を見開き、やがてフッと微笑んだ。
「…上等」
私は何度も貴方によって溶かされる。
CO2+2NaOH→Na2CO3+H2O(俺だって同じでィ)
(アンタに近づきてェ)---------
うっし!潮解性覚えたvV
私が覚える為に出来た話だったり←
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