凄い。
今の状況を一言で表すのなら、これがぴったりだと思った。
ちょこれぇと!靴箱、机の上、そして中にもぎっしり詰め込まれたモノは甘い甘い、愛。
これだけベタな事ってある?靴箱と机の主は、朝からずっと積極的な女子達に呼び出され中。
紙袋が沢山ぶら下がったそれを見て、大きくため息。そっと自分の懐に視線を落とし、またため息。
沖田総悟。学校一、二位を争う程のモテ王子である。それだけでなく、他校でもそのモテっぷりは尋常ではない。かく言う私も彼を好いている女子の一人。
しかし私は彼とそこまで親しい訳ではない。そのため、毎年チョコを用意してはいるのだが、結局渡しそびれて二年が経った。
高校生活最後のバレンタインデー。このラストチャンスを逃せば、一生渡す事は無いだろう。何とか渡さなければ。
『(でも…)』
もしいらないと突き返されたら?最悪、捨てられるかもしれない。
そう思うと、怖くなって勇気を奮い立たせる事が出来ず、遂に放課後になってしまった。
『(終わっちゃった……)』
一人になった教室。引き出しから小さな包みを取り出す。淡いピンクの包装紙と赤いリボンでラッピングされた、三年間で一番可愛いらしく、美味しくできたチョコレートだった。
自分の臆病さに酷く腹が立って、悔しくて。自然に零れた涙はポタ、とリボンに染みを作らせた。
「何泣いてんですかィ」
『っ?!』
突然の事でビクリと肩が跳ねる。声を聞くだけで誰だか分かった。三年間必死にその声を聞き取ってきたから。
頭の中が真っ白。何故?どうしてここへ来たの?聞きたい事が沢山ありすぎて、思うように呂律が回らない。
『…ど…して』
震える声で問うと、沖田はフッと柔らかく微笑んだ。
「チョコ。今年もくれねェのかィ」
へ、
"今年も"?ああ、駄目だ。思考が上手く機能しない。
『何で…』
「アンタ、一年の時から俺にチョコ用意してやしたよねィ?」
『!!』
どうして…どうしてそれを知っているの?
私の思考を読み取ったのか、こちらへ歩み寄ってきた。
「俺ァ三年間ずっと、アンタがチョコをくれるのを待ってたんですぜ」
『え…?!』
ポカンとする私を見て、彼は悪戯っぽく笑い、私の額にデコピンを食らわせた。
「流石に今年は渡すかと思いきや…見事に期待を裏切りやしたねィ」
『いたた……そ、れはっ…』
「それは?」
『っ…拒否されたり、捨てられるんじゃないかって…怖くて………っ!!』
急に視界が暗くなったかと思えば、強い力が掛かって苦しくなった。抱き締められていると気付いたのは少し経ってからの事だった。
「……バカじゃねェのかィ。入学してから、ずっとアンタばっか見てたってェの」
『っ……、』
「今まで我慢してた分、これからきっちり埋めさせてもらいまさァ」
それと同時に息をつく暇さえ与えないような、チョコよりもずっと甘いキスをされた。
(ハッピーバレンタイン!)
(チョコより甘い、とびきりの愛を君に)--------
非リア充な私に、これ程無縁なイベントは無いですね。
爆発しちゃえばいいのry((蹴←
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