「じゃあね、しんちゃん」
まだ5歳くらいの時の話だ。そう言って俺の【母親】は出て行った。これは誰も悪くない。そう、誰も。当時の俺はそう思っていた。真実を知る高校2年生になるまでは。
自分のせいでいなくなったと思った時期もあった。今までは俺は長いものに巻かれる性格で自分の意見は言えずにいた。悪く言うならオドオドした、弱い男だった。
高校2年になった今、俺は今の状況が読み込めない。どうして?見知らぬ女がいる。誰だ?父親と同じくらいの女。肝心な父親は照れながらその女性を紹介した。
「これからお前の母さんになる人だ」
俺の母さんは……俺の母さんは……ッ!!!!!
「一人だけなんだよ!!!!!!!!!」
俺はスマホと財布だけ持って家を飛び出した。信じたくなかった。父親が再婚なんて。しかもこんないい歳して。状況を読み込めないまま俺は当時仲良くしてたバイト先の先輩の家へ転がり込む形になった。親への連絡は全部無視した。
先輩はいかにもヤンキーという見た目をしていて、生活も言ったら悪いが不健康そのものだ。誰かが常にいて、先輩と俺、彼女もしくは友達。俺の性格からして俺も先輩のようになるには時間はかからなかった。けれど先輩は俺には親のように接してくれた。未成年でタバコを吸おうとしたらゲンコツどころか殴られたし、酒も一滴も飲ませなかった。それどころかパシリすらしなかった。そんな先輩の口癖は
「お前は俺みたいになるなよ」
だった。俺は最初は何言ってるか理解できなかった。でも、先輩には憧れてたし。見た目や性格が変わってからの学校生活は180度変わった。アニメ好きだった友達がよりつかなくなり、代わりにギャルや陽キャな連中が絡んでくるようになり、いつのまにか俺はクラスの中心人物になっていた。
放課後、最近絡んでくる貴史と夏菜ととあるドラックストアへ来ていた。俺は周りを警戒しながらお目当ての棚があるところまで行く。その行動に合わせて貴史と夏菜は店員の行動を見張る。俺は唾を飲む。商品を一つ手に取り、鞄に入れる。貴史も夏菜もオッケーサインを小さく出す。俺は一息ついて店から出ようとしたら後ろから手を捕まれた。
「最初から見ていたよ。ちょっと事務所まできてくれるかな?お友達も一緒にね」
よく見ると、貴史も夏菜も捕まっていた。俺たちは仕方なく店長と思われる人のあとへ付いて行き、事務所へ入った。
「怒らないから、さっき鞄に入れたもの出してごらん」
仕方なく俺は鞄の中からくすねたものの一部だけ出した。そしたら少し険しい顔をしてもう一度俺の顔を見た。
「これだけじゃないよね?まだあるでしょ?」
「………」
俺は仕方なく全部鞄の中から出した。店長はそれを見て、ため息をはいてから俺たちの顔を見た。
「いいかい?これは立派な犯罪なんだよ。子供でもしてはいけないことなんだ。大人になればなるほど罪は大きくなる。それに最近のニュースだと実名や出身校にまで迷惑がかかってしまう。君たちだけの問題ではなくなってしまうんだよ」
俺はそんなこと教わってない。知らない知らない知らない知らない。俺は耳をふさいだ。
「今回は初犯っぽいけど学校と親には連絡させてもらうからね」
貴史と夏菜はそれだけはやめてくれと懇願していたが、いけないことをしてしまったのは俺たちだ。現実を受け止める為に二人を黙らせた。
しばらくすると貴史と夏菜それぞれの親が来た。貴史はグーパンで殴られていて、夏菜はその場で土下座させられていた。泣いてる二人を見ていると両方の親は俺を睨んだ。
「もうウチの子と関わらないでもらえる?」
「…はい、すみませんでした」