琢磨は一瞬驚いた顔をしてから、俺にすまんと謝ってきた。琢磨はバスケ部に所属してないから関係ないはずなのに。
しかも大好きな運動すらしてないはずなのに。
「俺の学校はいわゆる不良って呼ばれる奴が多くてさ、特に運動部は結構荒れてて。俺もあいつらの被害者だけど…同じ学校の奴として
謝る。スマン!!!」
「でも、そいつらのリンチよりもっと怖いものがあるんだ」
「怖いもの?」
「俺の両親」
俺は今までされたことやさっきの出来事、全てを琢磨に話した。途中から琢磨の方が泣き出して俺に抱きついて、辛かったなと頭をさすってくれた。
さすがに同性同士は嫌だと引きはがし、琢磨の鼻水と涙をふいてあげた。目を赤く腫らした琢磨が俺の肩をつかみ、目線を合わせた。
「もし辛くなったら俺んち来い!!いつでもお前を待ってるから!!!また親に飲み込まれそうになったら俺が手を引いてやるから!!」
「琢磨……ありがとな。実はな、最近だけど夢ができたんだ」
「夢?なんだよ、教えろよ」
「学校の先生」
そう言うと琢磨はニッカリ笑ってお前らしいと背中を叩いた。叩かれた場所はリンチで蹴飛ばされた部分で痛かったけど、久しぶりに
友達と馬鹿騒ぎできたことで俺は心から笑っていた。
「樹くん、お兄さんから電話よ」
取り込み中ごめんね、と琢磨のお母さんが子機を持ってきてくれて、電話に出ると兄の声がした。
「ケがは大丈夫か?事の顛末は両親から聞いた」
「ごめんなさい、迷惑かけるつもりは…」
「俺はあんな両親の間で育ったなんて情けない。今までお前は辛い思いをしてきたな」
「えっ、兄さん?」
兄さんはため息をつきながら色々話してくれた。あの後、実家へ戻って樹への態度など人として終わってると説教したらしい。
これからは受験が終わるまでは俺が引き取ると両親の説得もなしに強引に決めたそうだ。親は兄に対して泣きながら謝ったり、
樹の面倒は親が〜とか義務教育が〜とか騒いでいたらしいけど無視して電話を切ったらしい。
「いいか、これは毒親の症状だ」
「毒親なんてテレビだけの世界だと…」
「実際はもっとたくさんいる…ネグレクトだったり、もっとひどければ命に関わる虐待なんかもある。俺はそんな危ないところに
お前を置いておくなんてできない。だから、しばらくの間は俺がお前の面倒を見る。そして、お前の好きな道へ進め」
「兄さん…ありがとう。俺、学校の先生になりたい」
「俺はその夢を応援するよ。今日は琢磨くんちでお世話になるのか、今から迎えに行くかどうする?」
「今日は琢磨んちにお世話になるよ」
「わかった。じゃあ明日、迎えに行くからな」
「うん、ありがとう。おやすみ」
俺は電話を切って琢磨のお母さんに子機を返した。琢磨のお母さんも安心した顔を見せた。琢磨の部屋に戻ると、琢磨は笑顔に
なっていて
「よかったな!!」
とハイタッチをした。それから夜が明けるまで琢磨とゲームしたり、お互いの近況報告したり夜中まで遊んだ。
翌朝、兄が迎えに来てくれて差し入れのお菓子を琢磨のお母さんに渡していた。帰り支度をしてると、琢磨が俺を呼び止め手のひらに
あるものを握らせた。
「お守り?」
「お前が受験成功しますようにってな。目標見つかったんだから頑張れよ?」
「お前もな!!」
俺たちはハイタッチをして別れた。それからは何の束縛もなく、たまに息抜きをして、分からない箇所は兄に聞いたり、放課後みんなで
勉強会をしたり充実した日々を過ごしている。たまに琢磨とも連絡をとりながら。そういえば、真也や柚子、茉由はどうしてるんだろう?
たまには連絡とってみるのもありかな。机の引き出しに閉まってあったシンプルなレターセットを取り出し、琢磨含めてみんなに手紙を
書いてみた。みんなに会えるまで、あと5年−