樹【中学3年生】

ブザービートの音で試合が終わる。それと同時に歓声があがる。相手チームもお互い抱き合って喜んでいる。俺たちの夏は、終わった。 観客に挨拶に行こうと泣いてる後輩たちを無理矢理立たせて観客席に挨拶する。今日は最後の試合。だから両親にも見て欲しくて。 ふと、親の席をみるといかにも負けて嬉しそうな顔をしていた。俺はそれが悔しくって唇を噛みしめた。

「これでようやく受験勉強に切り替えられるな」

父はウキウキして言った。うちの家系はみんな勉強ができて、兄が一人いるのだが、かの有名な医大生なのだ。 親からの期待に応えられた兄貴は本当に尊敬するが、兄ができすぎてしまうが故に俺への期待がプレッシャーになっているのだ。 やりたいことも分からないまま、俺は兄と同じ進路を歩むことになった。本当にそれでいいのだろうか?
部活がなくなった今、親からの束縛がすごい。友達と帰るな、寄り道するから。バスケをするな、そんな時間があったら勉強しろ。 時間がもったいない。本を読むなら漫画ではなく参考書にしろ、漫画は捨てる。こんな生活で俺はノイローゼになった。 唯一の楽しみが学校へ行って友達と会うことだ。毎日会っているが、話すだけでも少しは気持ちが和らぐ。そして、親からの監視も ないので快適に過ごせるのだ。でも、みんな受験生という自覚はあるそうで、休み時間も少し勉強するようになった。

「博士〜数学教えてくれ〜」

そう、俺はクラスでのあだ名は『博士』なのだ。休み時間になればみんなに勉強を教えたり、 先生が用意した応用のプリントもほぼ全問正解するくらいに。なので先生からも学歴優秀で部活動にも貢献した優秀な生徒として 見られているのだ。けど、本当の俺の心の叫びなんて先生は理解するはずもなく。

「昨日の数学のノート出して。ここの範囲にこの式を当てはめてみろ。な、意外と簡単だろ?ちなみに、こっちの式に当てはめた方が もっと楽にとける」
「やっぱ博士すげぇ!!!!先生の授業なんかよりよっぽどわかりやすい」
「それ先生に失礼だぞ」

ケラケラ笑いながら勉強してるとどんどん周りに人が集まってくる。男女関係なくみんな俺に勉強を教えてもらいに来る。 今日は博士による特別授業だー!なんて友達が騒ぐもんだから、放課後も残ってみんなに勉強を教えた。親のことはすっかり忘れていた。
家に帰るともう7時になるところだった。鍵を開けてただいま、と口にしたら母親からビンタされた。

「あんた何時だと思ってるの!!受験生の自覚あるわけ!?」
「違うよ母さん、今日はクラスのみんなと勉強を…」
「そんなの言い訳よ!!あんたには勉強しか取り柄がないんだから!!お兄ちゃんみたいにいい大学行ってお医者さんになるの!! そうじゃないと親戚の人に恥ずかしくて顔なんて出せないわ…とにかく、学校終わったらすぐに帰ってきなさい!!寄り道なんてぜっっっったいにダメなんだから!!!!!!!あとでお父さんにも報告しときますからね」

俺の言い分すら聞いてくれない親なんて。心の奥底からフツフツと今までにない感情が芽生えてきた。父親が帰ってきてからはさっきのことで 説教をくらった。家には味方は誰もいないんだ。俺は説教のあとは部屋にこもって頭にも入らない参考書を読んでいた。
後日、友達にまた勉強会を誘われたが、昨日のこともあり断った。今日は大人しく家に帰ろうとした時、見知らぬ制服の男数人に囲まれた。 全然見覚えもなく、そのまま素通りしようとしたところ、いきなり鳩尾にパンチをくらった。 胃液が口から出てきて立ち上がろうにも立ち上がれない。

「よぉ、この間の練習試合はどうも」
「…!?」

思い出した。こいつら、隣の学校のバスケ部の連中だ。学校同士が近いからよく練習試合もしたし、 この間の夏の大会でも俺たちに大差で負けて初戦敗退したチームだ。今までの試合の復讐にでも来たのだろうか。 俺は先輩たちが引退してからキャプテン兼部長を任され、先輩たちが行けなかった県大会までベスト4まで残ったのだ。

「俺一人に対して大勢でなんて卑怯じゃないのか。とても同じバスケをしてきた連中とは思えないが」
「うるせぇんだよ!!お前のせいで部活の内申がよくないんだよ。どう責任とるんだ??あ??」
「それは君たちの責任じゃ……グハッ、」

今度は蹴りを入れられリンチ状態になった。俺はボコボコにされながら意識を途絶えた。

樹1 | ナノ
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -